東京地方裁判所 昭和62年(ワ)17525号 判決 1998年2月25日
甲事件原告及び乙事件原告
東海商船株式会社
右代表者代表取締役
三宅弘
甲事件原告
ネプチューン・タウラス・シッピング・コーポレイション
右日本における代表者
野原勇治
乙事件原告
ネプチューン・ボランス・シッピング・コーポレイション
右日本における代表者
佐藤紘一
乙事件原告
ネプチューン・パシフィック・シッピング・コーポレイション
右日本における代表者
堀端保
右四名訴訟代理人弁護士
吉本英雄
同
住本敏己
甲事件被告及び乙事件被告
全日本海員組合
右代表者
土井一清
甲事件被告
柳田栄
乙事件被告
藤川弘
同
井上晴夫
右四名訴訟代理人弁護士
田川俊一
右訴訟復代理人弁護士
島田修一
同
大熊政一
同
今村核
主文
一 甲事件について
1 被告全日本海員組合及び被告柳田栄は、各自、次の各金員を支払え。
(一) 原告東海商船株式会社に対し、金一九七万三九七四円及びこれに対する昭和六二年一一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員
(二) 原告ネプチューン・タウラス・シッピング・コーポレイションに対し金一五万〇六〇五円及びこれに対する昭和六二年一一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員
2 原告らの被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。
二 乙事件について
1 被告全日本海員組合及び被告藤川弘は、各自、次の各金員を支払え。
(一) 原告東海商船株式会社に対し金二四七万七五四七円及びこれに対する昭和六三年三月五日から支払済みまで年五分の割合による金員
(二) 原告ネプチューン・ボランス・シッピング・コーポレイションに対し金二〇万〇八九一円及びこれに対する昭和六三年三月五日から支払済みまで年五分の割合による金員
2 被告全日本海員組合及び被告井上晴夫は、各自、次の各金員を支払え。
(一) 原告東海商船株式会社に対し金五三一万二六二九円及びこれに対する昭和六三年三月五日から支払済みまで年五分の割合による金員
(二) 原告ネプチューン・パシフィック・シッピング・コーポレイションに対し金四一万七九四八円及びこれに対する昭和六三年三月五日から支払済みまで年五分の割合による金員
3 原告東海商船株式会社の被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。
4 原告ネプチューン・ボランス・シッピング・コーポレイションの被告全日本海員組合及び被告藤川弘に対するその余の請求並びに被告井上晴夫に対する請求をいずれも棄却する。
5 原告ネプチューン・パシフィック・シッピング・コーポレイションの被告藤川弘に対する請求を棄却する。
三 訴訟費用の負担の裁判及び仮執行の宣言
1 訴訟費用は、甲事件及び乙事件を通じ、原告らと被告らとの間で、これを一〇〇分し、その一四を原告東海商船株式会社の負担とし、その二を原告ネプチューン・タウラス・シッピング・コーポレイションの負担とし、その二を原告ネプチューン・ボランス・シッピング・コーポレイションの負担とし、その二を原告ネプチューン・パシフィック・シッピング・コーポレイションの負担とし、その三二を被告全日本海員組合の負担とし、その一六を被告全日本海員組合と被告柳田栄の連帯負担とし、その一六を被告全日本海員組合と被告藤川弘の連帯負担とし、その一六を被告全日本海員組合と被告井上晴夫の連帯負担とする。
2 この判決は、第一項第1号並びに第二項第1号及び第2号に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
以下、甲事件原告及び乙事件原告東海商船株式会社を「原告東海商船」といい、甲事件原告ネプチューン・タウラス・シッピング・コーポレイションを「原告タウラス」といい、乙事件原告ネプチューン・ボランス・シッピング・コーポレイションを「原告ボランス」といい、乙事件原告ネプチューン・パシフィック・シッピング・コーポレイションを「原告パシフィック」といい、甲事件被告及び乙事件被告全日本海員組合を「被告全日海」といい、甲事件被告柳田栄を「被告柳田」といい、乙事件被告藤川弘を「被告藤川」といい、乙事件被告井上晴夫を「被告井上」という。
第一 請求
一 甲事件
被告全日海及び被告柳田は、各自、原告東海商船に対し金二五七万四〇八七円及び原告タウラスに対し金二一万九〇六二円並びにこれらに対する昭和六二年一一月一日から支払済みまで年五分の割合による各金員を支払え。
二 乙事件
被告全日海、被告藤川及び被告井上は、各自、原告東海商船に対し金七九七万六〇四一円、原告ボランスに対し金二〇万〇八九二円及び原告パシフィックに対し金四一万七九四八円並びにこれらに対する昭和六三年三月五日から支払済みまで年五分の割合による各金員を支払え。
第二 事案の概要
本件は、原告東海商船が外国法人から定期傭船中の船舶につき港湾で荷役を実施しようとした際、被告全日海が、右船舶は原告東海商船を実質的な船主とする便宜置籍船であるが、原告東海商船は被告全日海が加盟している国際運輸労連のブルー・サーティフィケイト(青色証明書)取得のための交渉に誠実に応じようとしないとして、右船舶を便宜置籍船対策キャンペーンの対象とすることを決定し、港湾労働者の組合の支援を得て荷役ボイコットを行うべく活動したところ、原告東海商船が、被告全日海の組合員らは、右船舶に対する荷役を実力で妨害した等と主張して、被告全日海及びその下部組織の(地方)(副)支部長個人に対し、不法行為による損害賠償を請求した事件である。
甲事件は、昭和六二年一〇月三一日、大阪港において、原告東海商船が原告タウラスから定期傭船中のバージニヤ号に対する荷役を実施しようとした際に、艀においてクレーンで船上に巻き上げようとしていた鋼材の上に被告全日海の近畿地方支部(昭和六三年三月一日をもって大阪支部と改められた。)組合員が乗って荷役を妨害したために、荷役を行えなかったことを理由とする不法行為による損害賠償請求事件である。
また、乙事件は、昭和六三年三月四日、大阪港において、原告東海商船が原告ボランスから定期傭船中のジャパン号に対する荷役を実施しようとしたが、被告全日海大阪支部の組合員がジャパン号の舷門付近にピケッティングを張り、荷役を行うことを妨げたことを理由とする不法行為による損害賠償請求事件と、右同日、神戸港において、原告東海商船が原告パシフィックから定期傭船中のパシフィック号に対する荷役を実施すべく、クレーンで貨物を巻き上げようとしたところ、被告全日海関西地方支部組合員が手で押さえたり、足をかけたりする等して、実力をもって荷役を阻止したことを理由とする不法行為による損害賠償請求事件である。
一 争点
(甲事件)
1 被告全日海近畿地方支部組合員らによる荷役妨害行為の有無
(一) バージニヤ号の積荷を監督するポートキャプテン長川久雄(以下「長川」という。)が、原告東海商船本社の荷役実施の指示に基づき、昭和六二年一〇月三一日午前九時三〇分ころ、港湾作業(荷役作業)請負人訴外近畿港運株式会社(以下「近畿港運」という。)営業第一部長杉本幸夫(以下「杉本」という。)に対しバージニヤ号に対する荷役開始を指示し、杉本の指示に基づき、下請の訴外大阪港湾作業株式会社(以下「大阪港湾作業」という。)の作業員がバージニヤ号の第二及び第四ハッチの艙口を開き、右舷側に接舷中の艀日新第二〇〇号及び大芳丸第四において、貨物に荷役用ワイヤーを掛けてクレーンで船上に巻き上げようとしていた際、被告柳田の指示を受けた被告全日海組合員四、五名が、右各艀に乗り移り、既に荷役用ワイヤーを掛けてクレーンで船上に巻き上げようとしていた貨物の上に乗り、もって、荷役作業の続行を困難にし、これを妨害したものであるか。それとも、もともと杉本は荷役を行う意思がなく、被告全日海は、杉本から、「原告東海商船に対して荷役ができなかったことの言い訳とするため、貨物の鋼材の上に被告組合員が乗っている場面等の写真を撮りたい。」旨依頼を受け、これに応じることとし、被告全日海組合員四、五名が右のような場面の写真撮影に協力したにすぎず、被告全日海には荷役作業妨害の意図はなく、これを妨害したこともなかったものであるか。
(二) 原告東海商船は、昭和六二年一〇月三一日午後、バージニヤ号に対する荷役を開始するよう指示し、近畿港運及び大阪港湾作業は、右指示を受け、荷役作業を開始しようとしたが、被告全日海の組合員が乗り組んだボートも右艀に接近し、厳重な態度でこれを監視する状況となり、もしこれ以上作業を続行すれば午前中に行われたと同様の妨害行為がされる状況となったため、原告東海商船は、船積作業の打切りを命じたものであるか。それとも、被告全日海は、バージニヤ号から一〇〇メートル位離れたボート上で荷役がなされるか見守ったにすぎず、被告全日海には荷役作業妨害の意図はなく、これを妨害したこともなかったものであるか。
2 損害の有無、金額
(乙事件)
1 被告全日海大阪支部組合員らによるジャパン号に対する荷役妨害行為の有無
被告全日海大阪支部支部長である被告藤川は、近畿港運に対し、あらかじめ荷役ボイコットを行う旨通告した上で、昭和六三年三月四日、被告全日海組合員一三、四名と共に、ジャパン号の舷門付近に被告全日海の旗数本を林立させる等してピケを張ったが、被告藤川らの右行為は、近畿港運に荷役を行わせない気勢を示し、近畿港運をして同日予定していた鋼材、建築用機械の積込み作業を行うことを断念させ、荷役を妨害するものであったか否か。
2 被告全日海関西地方支部組合員らによるジャパン号に対する荷役妨害行為の有無
被告全日海関西地方支部組合員らは、昭和六三年三月四日、支部長である被告井上の指示に基づき、パシフィック号上にクレーンで巻き上げ作業中の貨物を手で押さえたり、足をかけたりする等して、実力をもって荷役を阻止したか否か。
3 1、2による損害の有無、金額
二 前提となる事実
(証拠によって認められる事実を含む項については、証拠を各項の末尾に掲げる。)
1 当事者について
(一) 原告東海商船は海上運送業務を営む株式会社である。原告タウラス及び原告ボランスは、共に、パナマ共和国法に基づき設立され船舶運航業務に従事する外国法人である。原告パシフィックは、リベリア共和国法に基づき設立され船舶運航業務に従事する外国法人である。
原告タウラス、原告ボランス及び原告パシフィックは、それぞれ、機船バージニヤ・レインボー号(以下「バージニヤ号」という。)、ジャパン・レインボー号(以下「ジャパン号」という。)、パシフィック・レインボー号(以下「パシフィック号」という。)を所有し、原告東海商船は、右三原告から右三船をそれぞれ定期傭船している。右三船は、いずれも原告東海商船の便宜置籍船である。
(二) 被告全日海は、日本における船員を構成員として組織されている全国組織の職能別単一労働組合であり、昭和二〇年一〇月に設立された。事件当時、被告柳田は被告全日海近畿地方支部長、被告藤川は被告全日海大阪支部長、被告井上は被告全日海関西地方支部副支部長であった。被告全日海は、昭和六三年三月一日をもって、近畿地方支部と神戸地方支部とを統合し、従前の近畿地方支部を大阪支部と、右のとおり統合した神戸地方支部を関西地方支部と改め、関西地方支部に所属する支部として大阪支部と和歌山支部とを配置した(バージニヤ号に対する便宜置籍船対策キャンペーンが行われた昭和六二年一〇月三一日の時点では、大阪支部は近畿地方支部という名称であった。以下、行為時に近畿地方支部、神戸地方支部の名称であった場合には、その名称を使用する。)。
(三) 被告全日海は、国際運輸労連(ITF)に加盟している。国際運輸労連は、運輸関係の労働者等の国際的な利益保護を目的として設立された世界的規模を有する団体である。
((二)につき弁論の全趣旨)
2 被告全日海の便宜置籍船対策活動(キャンペーン)について
(一) 便宜置籍船(Flag of Con-venience Vessels'FOC)とは、海運会社が、船舶に対する納税、船舶運航・安全管理の規制の回避、低廉な船員労働力の利用等の目的で、海外子会社を設立し、船籍をその国に置くこととした船舶のことをいう。
国際運輸労連は、便宜置籍船に関する諸対策を行っているが、その活動は主に以下の四つに分類される。第一に、国際運輸労連が承認する賃金水準、その他の労働条件を満たしている労働協約が適用され、かつ、右労連が世界の船員労働者のために設けている船員国際援助、福利、保護基金への拠出金納入などの要件が満たされている便宜置籍船には、それを証明する青色証明書(Blue Certificate'ブルー・サーティフィケイト。以下「青色証明書」という。)を発行し、その船舶に携帯させる。第二は、有効な青色証明書を所持しない便宜置籍船の船主に対し青色証明書の取得を日常的に働きかけ、無理解、非協力的な船主が所有する便宜置籍船に対し、港湾労働者と連帯して荷役に協力しない等の抗議行動を実施する。第三に、世界の各港に入港する便宜置籍船を訪れ、青色証明書を携帯しているか、携帯している船舶については締結した労働協約が正しく実行されているかチェックし、携帯していない船舶については、乗組員に対する啓蒙活動と共に、船主に対し、青色証明書を取得するよう勧告するための専門委員(ITFインスペクター)を、その国の国際運輸労連加盟船員組合等の責任において常置させ、その専門委員制度を拡大強化する。第四に、国際労働機関(ILO)等の国際機関の場において、便宜置籍船対策の目的を国際条約や勧告等を通して実現することを最大限重視し、可能な限り積極的な活動を進め、必要な条約批准の促進や、特定国の便宜置籍船に関する諸問題について、その国の政府機関や関係団体に対しその必要とする勧告や調査を行う。
(二) 被告全日海は、海上の安全、公正な海運活動秩序の維持、日本人船員の雇用、労働条件確保等の観点から、我が国海運業界の便宜置籍船拡大政策に反対し、国際運輸労連の便宜置籍船対策に関する方針を支持し、昭和五八年一〇月以降、毎年全国の主な港で国際運輸労連の方針に沿う便宜置籍船対策活動を展開してきた。その目的は、国際運輸労連が承認している労働条件を満たす労働協約が適用される等一定の要件が満たされている便宜置籍船には青色証明書を発行し、そうでない便宜置籍船には青色証明書の取得を求め、便宜置籍船に乗船している乗組員の職場環境、労働条件を改善することである。
(三) 被告全日海近畿地方支部は、大阪港湾労働組合協議会及び同盟交通運輸港湾協議会と共に、昭和六〇年三月二二日、国際運輸労連の方針に基づき、大阪港において便宜置籍船対策活動を行う旨の共同声明(乙第一一号証)を発表し、その中で、船主の対応いかんによっては執ることとなる対抗措置を実効あらしめるため、便宜置籍船対策連絡会を結成したことを表明した。また、大阪港湾労働組合協議会は、同年四月四日、大阪港運協会に対し、「便宜置籍船及びマルシップに関する申し入れ」と題する書面(乙第一二号証)をもって次のとおり申し入れた。すなわち、被告全日海が、便宜置籍船に対し、国際運輸労連の方針に基づき、安全、福利等の一定の条件を具備していない便宜置籍船のボイコットを決定し、具体的行動に入ることとしていることを受け、大阪港湾労働組合協議会は、被告全日海が大阪港において実践する便宜置籍船対策活動に賛意の立場を取ることを定期大会で決定し、右共同声明を発表したと述べた上で、「当協議会は、この全日本海員組合近畿地方支部のオルグ活動の過程で紛議が生じた場合、他組合の紛議に対しては不介入の原則に立ち、強行就労を行わないことを…(中略)…幹事会において機関決定した旨貴協会に連絡申し上げますと同時に、また、貴協会が傘下店社に影響をもたらすことが予測されますので、是非とも各位のご協力を賜わりますようご要請申し上げ、大阪港において無用のトラブルをさけるため強行作業を行なわせないよう傘下各店社への徹底方をはかられたくここに申し入れます。」というものであった。
なお、港湾労働者の労働団体である大阪港湾労働組合協議会は、経営者団体である大阪港運協会と労使関係にあり、労働協約を締結している。
(本項全部につき甲第一六号証、乙第一、第三、第四、第一一、第一二号証、第一三号証の一及び二、証人池田秀男、同蒲章、同中村正彦及び同木畑公一の各証言)
3 甲事件について(バージニヤ号に関する事実経過)
(一) 原告東海商船は、原告タウラスとの間で、同社所有の機船で便宜置籍船であるバージニヤ号を定期傭船とする定期傭船契約を締結した。同船は、昭和六二年一〇月下旬、米国向け鋼材を船積みするため、大阪港に入港した。
被告全日海は、同月二九日、船長を通じて原告東海商船に対し、同原告が国際運輸労連の青色証明書を取得するよう交渉したい等申し入れた。
(二) 昭和六二年一〇月三〇日、バージニヤ号に対する船内荷役作業が行われた。原告東海商船は、近畿港運と、運航代理店契約及び港湾作業(荷役作業)請負契約を締結していた。近畿港運は、船内荷役業者である大阪港湾作業と下請契約を締結していたため、バージニヤ号における船内荷役作業は大阪港湾作業が行った。
船内荷役作業は、積込みの場合、港内に停泊中の本船の舷側に接舷している艀に積載されている積荷を本船に備付けのクレーンを使って船艙内に積み込んでいく作業であり、本船の一ハッチ(艙)毎にギャングと呼ばれる一つのチームを作って行う。バージニヤ号の二組のギャングは、同日午前八時、ボートに乗り込んで出発し、午前八時二五分ころ、バージニヤ号に乗船した。同船には元請会社である近畿港運の荷役監督であるフォア・マンが乗船しており、積付けプランの照合を行った後、ギャングは、フォア・マンの指示で作業を開始した。荷役作業は午前八時三〇分から午後四時三〇分まで行われ、作業責任者はデッキ上や船艙内を行き来して、積付けプランに基づき積込みの具体的な指示をし、その他の作業員はこの指示に従って、クレーンで鋼材を艀から船艙内に移し、積み上げていった。荷役作業と並行して検数作業も行われた。検数作業は日本貨物検数協会大阪支部の検数員数名によって行われたが、それは、艀から本船に積み込まれる荷物に行先別の指図書を貼ったり、荷物の数をチェックしたり、積み込まれた荷物の船艙内の位置を図面上に記入したりする等積荷の管理や積卸しをスムーズにすることであった。
被告全日海近畿地方支部は、原告東海商船及び近畿港運に対し、同月三〇日、バージニヤ号の積荷ボイコットを翌日(同月三一日)に行うことを通告した。
(三) 被告柳田は、昭和六二年一〇月三一日午前七時すぎころ、大阪通船すみよし丸に一〇数名の被告全日海近畿地方支部組合員を乗船させ、被告全日海の旗七、八本を林立させ、バージニヤ号付近に至り、同船の荷役を監視する態勢を取っていた。
他方、船内荷役作業員及び検数員は、午前八時すぎころ、バージニヤ号に乗船し待機した。船内荷役作業員は、午前九時三〇分ころ、バージニヤ号の第二船艙及び第四船艙の右舷に接舷中の二艘の艀内に積載された貨物の鋼材に荷役のためのワイヤーを掛けたが、その際、右各艀に乗り移っていた被告全日海近畿地方支部組合員四、五名が鋼材上に乗った。
被告全日海と原告東海商船及び近畿港運は、荷役作業につき協議を行い、被告全日海は、原告東海商船及び近畿港運側に対し、原告東海商船本社が被告全日海と青色証明書取得問題の件で協議すること等を求めた。原告東海商船側は、同日午後、近畿港運に対し、荷役作業を行うよう指示し、荷役のために必要な作業が行われたものの、結局、同日荷役は行われないまま、中止された。
4 乙事件について
(一) ジャパン号に関する事実経過
原告東海商船は、原告ボランスとの間で、機船で便宜置籍船であるジャパン号を定期傭船とする定期傭船契約を締結した。同船は、昭和六三年三月一日、鋼材と建設用機械の積荷のため、大阪南港C―六号岸壁に接岸したが、積荷が揃っていなかったため、同岸壁で係留待機した。
被告全日海大阪支部執行部員池田秀男(以下「池田」という。)ら組合員は、同月二日、被告全日海の便宜置籍船の査察活動としてジャパン号に乗船し、船長に対し、国際運輸労連が発行する青色証明書取得の交渉を申し入れた。同日は、積荷作業が午後四時三〇分まで続行された。
同月三日も、ジャパン号で積荷作業が行われた。池田らは、同日午前中、ジャパン号に乗船し、右船長に対して青色証明書取得のための交渉をした。しかし、右船長は受諾の回答をしなかった。被告藤川は、大阪港湾労働組合協議会議長山本敬一及び全日本港湾運輸労働組合同盟副会長新屋義信に対し、「第16次FOCキャンペーンにおける荷役ボイコット対象船について」と題する書面をもって次のとおり通知した。すなわち、被告全日海大阪支部は、同月二日の査察の結果、右船長に対し、国際運輸労連の青色証明書を取得するよう話合いを求めたが船主等から何ら連絡がなかったため、同月四日午前八時から二四時間、大阪港南港岸壁(バース)C―六号において、荷役ボイコットの対象とすることを決定した旨通知した。港湾運送事業会社の代表団体である大阪港運協会に対しても同様の通知がされた。
被告藤川は、同月四日午前七時三〇分ころ、被告全日海大阪支部組合員一三、四名と共に、ジャパン号の舷門付近の岸壁において、被告全日海の旗数本を林立させた。他方、船内荷役作業員、大工、検数員及び検査員らは、午前八時すぎ、船積作業のためジャパン号舷門前に到着した。しかし、これら作業員らは、終日待機したのみで、荷役作業は結局行われなかった。
(二) パシフィック号に関する事実経過
原告東海商船は、原告パシフィックとの間で、機船で便宜置籍船であるパシフィック号を定期傭船とする定期傭船契約を締結した。原告東海商船は、元請荷受業者の株式会社上組(以下「上組」という。)との間で荷役作業の請負契約を締結し、上組は船内荷役業者の上津港運に荷役作業の下請を依頼した。
同船は、昭和六三年三月三日、鋼材と建設用機械の積荷のため、神戸港六甲アイランド岸壁(バース)K・Lに接岸した。
船内荷役作業員二組らは、同月四日朝、船積作業の準備のため、パシフィック号に乗船した。被告井上ら被告全日海関西地方支部組合員は作業員らの乗船後に同船舷門付近に到着し、岸壁に被告全日海の旗数本を立てた。
船内荷役作業員らは、パシフィック号第二船艙及び第四船艙で貨物積込作業のための準備を開始した。被告井上は、第二船及び第四船艙に被告全日海関西地方支部組合員を配置した。その後、第四船艙へ船積みするための貨物が地上から約五〇センチメートル持ち上げられたところで、(原因が何かはさておき)荷役作業は中止された。結局、同日は荷役作業は行われなかった。
第三 当事者の主張
(甲事件)
一 請求の原因
1(一) 原告東海商船は、昭和六二年一〇月二九日以前に、原告タウラスとの間で、同社所有のバージニヤ号を目的とする定期傭船契約を締結し、定期傭船者として同船を利用して海上運送業務を行っていた。バージニヤ号は、昭和六二年一〇月二九日、米国向け鋼材を船積みするため、大阪港に入港した。
(二) 昭和六二年一〇月三〇日、バージニヤ号に対する船内荷役(船舶への貨物の積込み)が行われた。原告東海商船は、近畿港運との間で、大阪地区の運航代理店契約及び港湾作業(荷役作業)請負契約を締結し、近畿港運は、船内荷役業者である大阪港湾作業と下請契約を締結していたため、バージニヤ号に対する船内荷役作業は大阪港湾作業が行った。
(三) 同月三一日も右の態勢でバージニヤ号に対する船内荷役が行われることになっていた。
2(一) 被告全日海近畿地方支部は、昭和六二年一〇月三〇日、原告東海商船及び近畿港運に対し、バージニヤ号に対する荷役ボイコットを行うことを通告した。
(二) 被告柳田は、被告全日海近畿地方支部地方支部長としての地位、権限に基づき、同月三一日午前七時すぎころ、大阪通船すみよし丸に一〇数名の被告全日海近畿地方支部組合員を乗船させ、被告全日海の旗七、八本を林立させ、バージニヤ号付近に至り、同船の荷役を監視する態勢を取った。
3(一) 大阪港湾作業取締役船内部長で荷役責任者であった中西重吉(以下「中西」という。)は、昭和六二年一〇月三一日午前八時一〇分、原告東海商船の指示を受けた近畿港運の指示により、作業ボート船冨栄丸に船内荷役作業員二八名及び大工作業員六名を乗船させた。中西は、冨栄丸をバージニヤ号の右舷側に接舷させ、荷役作業を行うため船内荷役作業員らとともにバージニヤ号に乗船した。近畿港運営業部長杉本外三名も、同日午前八時二五分、バージニヤ号に乗船した。
(二) バージニヤ号には既に原告東海商船のポートキャプテン長川が乗船していた。長川、杉本は、予定どおり荷役を行う方針を確認した。
(三) バージニヤ号には、被告柳田、被告全日海近畿地方支部副支部長飛松三男(以下「飛松」という。)及び同執行部員池田が乗船してきた。そこで、長川は、バージニヤ号右舷舷門付近において、被告柳田及び池田らに対し、予定どおり荷役作業を行う旨を告げた。これに対し、被告柳田らは、「被告全日海が便宜置籍船問題についてキャンペーン中であり、また国際運輸労連が発行する青色証明書を携帯していない船に対してボイコット行動を行うべく、大阪港湾労働組合協議会の協力を得て荷役ボイコット行動に出た、原告東海商船がバージニヤ号での荷役を強行すれば、被告全日海もそれ相当の覚悟で対処する。」旨主張した。
4(一) 原告東海商船は、昭和六二年一〇月三一日午前九時三〇分ころ、長川との電話連絡による状況把握の結果、「全日海側からの抵抗により、荷役が物理的に実行不可能な状態に立ち至らない限り荷役を行う」との方針を決定し、作業員に対して荷役開始を指示し、バージニヤ号の艙口を開き、荷役を開始しようとした。ところが、被告柳田の指示を受けた被告全日海近畿地方支部組合員四、五名が、バージニヤ号の第二及び第四ハッチ右舷側に接舷中の艀日新第二〇〇号及び大芳丸第四に乗り移り、既に荷役用ワイヤーを掛けてクレーンで船上に巻き上げようとして準備していた貨物の上に坐り込み、荷役作業を妨害した。原告東海商船は、そのまま荷役作業を強行すれば人身事故も発生しかねない危険な状態となったので、右荷役作業をいったん中止せざるを得なくなった。
(二) 原告東海商船は、同日午後、バージニヤ号の現場から、被告全日海近畿地方支部組合員の動静について報告を受け、右組合員の動静を看取しながら荷役を開始するよう長川に指示した。長川は、午後一時、その旨被告全日海に通告したが、これに対して、被告全日海から強硬な抗議の申し出があり、もし荷役を強行すれば午前中と同様な荷役妨害が繰り返されることが予測された。中西は、大阪港湾作業の業務命令であるとして、荷役作業員にバージニヤ号での荷役作業を開始するよう命じ、同作業員らを右艀に乗り組ませ、作業に取り掛からせようとした。右荷役作業員は、大阪港湾労働組合協議会傘下の組合員であったが、被告全日海の同船での荷役ボイコット行動にもかかわらず、派遣会社の指揮に基づき荷役を強行しようとした。
しかし、被告全日海の組合員が乗り組んだボートも右艀に接近し、厳重な態度でこれを監視する状況となり、もしこれ以上作業を続行すれば午前中に行われたと同様の妨害行為がされる状況となった。
(三) そこで、原告東海商船は、同日午後三時四五分、荷役作業の打切りを命じ、バージニヤ号での船積作業要員は、同日午後四時、作業を打ち切り下船した。被告全日海の近畿地方支部組合員が乗り組んでいた右監視ボートも現場を去った。
5 被告らの責任
船舶に対する荷役ボイコットが正当として許容され得るのは、船主と乗組員との間に雇用条件に関する労働争議が存在する場合だけである。本件においては、船主と乗組員との間に労働争議は存在しなかった。また、被告全日海又はその近畿地方支部組合員は、バージニヤ号に関し、自らは原告らとの間に何ら労使関係がなく、乗組員やその所属組合から労働条件及び職場環境等の改善につき苦情の申出又は援助の申出を受けていたわけでもなかったのであるから、原告東海商船と団体交渉等を行う何らの法律上の権限がなかったにもかかわらず、原告東海商船に対し、国際運輸労連が独自に設定したにすぎず強行法規性を有しない労働条件等の水準達成を一方的に要求し、これを受け入れようとしないことを理由に、便宜置籍船対策キャンペーンに名を借りて、前記のとおり、定期傭船者、その請負人である荷役業者が行っていた荷役作業を実力を行使して妨害したものである。かかる荷役妨害行為が正当として許容され得る余地はない。
被告全日海その他の国際運輸労連加盟の労働組合が、便宜置籍船対策キャンペーンの手段として行う荷役ボイコットは、船主と乗組員との間に雇用条件に関する具体的な紛争がないのに、国際運輸労連の支配拡大を目的として行う政治的行動であって労働運動とはいえないから、違法である。
したがって、被告全日海による荷役ボイコット実行の決定及び指令、近畿地方支部長被告柳田自身及び同被告の指示に基づく被告全日海近畿地方支部組合員の前記行為は、荷役妨害行為であり、被告柳田は行為者として、被告全日海は民法七一五条に基づき、不法行為による損害賠償責任を負う。
6 原告らの損害
原告らは、被告らの前記不法行為により、以下の損害を被った。以下(一)ないし(三)記載の金額は、バージニヤ号の荷役作業が妨害され、関係作業員を待機させることにより不必要に支払った金額又は作業時間のずれにより支払わざるを得なくなった割増金額であり、これらは原告東海商船の損害となる。(四)記載の金額は原告タウラスの損害である。
(一) 昭和六二年一〇月三一日に待機させていた人員の報酬等相当額
(1) 船内荷役作業員二組二六名(一組一三名)分の報酬相当額六五万五一四〇円
(2) 荷役作業監督者の待機料相当額二万八七三〇円
(3) 船内作業用大工六名分の報酬相当額一四万六四六〇円
(4) 船内作業用フォークリフト四台賃借料相当額一四万二一七〇円
(5) 貨物検数員及び貨物積付計画図面作成員五名待機料相当額一三万五四五〇円
(6) 貨物積込検査員一名待機料二万四五三六円
小計一一三万二四八六円
(二) 昭和六二年一一月二日夜間に行った荷役の割増料金等相当額
(1) 船内荷役作業員割増料金(同年一一月二日一六時三〇分から二一時三〇分まで)
貨物一トン当たりの船積作業料金一二八二円の六〇パーセント割増料金、積荷四二万二四〇〇キロトン分相当額三二万四九一〇円
(2) 荷役作業監督者一名割増料金(同年一一月二日一六時三〇分から同年一一月三日午前四時三〇分まで)相当額六万一四八〇円
(3) 船内作業大工一二名割増料金(一名当たり五万二二五〇円。同年一一月二日一六時三〇分から同年一一月三日午前四時三〇分まで)相当額六二万七〇〇〇円
(4) フォークリフト四台分割増賃借料(同年一一月二日一六時三〇分から二一時三〇分まで)相当額一四万七七〇〇円
4.5トン三台(単価三万二九〇〇円)九万八七〇〇円
六トン一台(単価四万九〇〇〇円)四万九〇〇〇円
合計一四万七七〇〇円
(5) 検数員割増料金(同年一一月二日一六時三〇分から二一時三〇分まで)相当額
一トン当たり一一五円二〇銭の六〇パーセントの割合による四二万二四〇〇キロトン分二万九一九六円
(6) 荷役作業検査員割増料金(同年一一月二日一六時三〇分から二一時三〇分まで)相当額
一時間当たり二一三五円の割合による五時間分一万〇六七五円
小計一二〇万〇一九六円
(三) 港費関係
(1) 曳舟二隻分割増料金相当額
一回出港毎一隻につき七万七一〇〇円の六〇パーセントの割増による二隻分合計九万二五二〇円
(2) 港内水先人割増料金相当額
一回の水先料七万四六二〇円の五〇パーセント増三万七三一〇円
(3) 大阪湾水先人料八万円相当額
(4) 岸壁綱取扱料割増料金相当額
一回分綱取料四万二一〇〇円の七五パーセント増三万一五七五円
小計金二四万一四〇五円
よって、原告東海商船の損害は(一)ないし(三)の合計二五七万四〇八七円となる。
(四) 船舶不稼動関係
原告タウラスは、原告東海商船との間でバージニヤ号につき定期傭船契約を締結しており、原告東海商船から毎月米貨一〇万四七七三ドル五〇セント(一重量トン当たり米貨四ドル五〇セント)の傭船料の支払を受けていたが、被告らの前記不法行為による荷役妨害により、原告東海商船がバージニヤ号を使用できなくなったため、その不使用期間八時間(昭和六二年一〇月三一日午前八時三〇分より一六時三〇分、0.33333日間)分について、原告から以下の金額の支払を受けられなくなった。よって、同金額相当分は原告タウラスの損害である。
(1) バージニヤ号の傭船料等相当額
米貨一二三二ドル五三セント
円貨換算(昭和六二年一〇月三〇日当時、一ドル当たり一四〇円二五銭)
一七万二八六二円
(2) 船舶不稼働期間中飲料水代
一万二四五〇円
(3) 船舶不稼動期間中の岸壁使用料
三万三七五〇円
以上のとおり、原告タウラスの損害は合計二一万九〇六二円である。
7 結論
よって、原告東海商船は、被告全日海及び被告柳田に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、被告らの不真正連帯債務として、前記損害二五七万四〇八七円及びこれに対する不法行為が行われた後である昭和六二年一一月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求め、並びに原告タウラスは、被告らに対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、被告らの不真正連帯債務として、前記損害二一万九〇六二円及びこれに対する不法行為が行われた後である昭和六二年一一月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求の原因に対する認否
1 請求の原因1(一)、(二)及び(三)の各事実はすべて認める。
2 同2(一)及び(二)の各事実は認める。
3 同3(一)の事実のうち、冨栄丸が機船バージニヤ号の右舷側に接舷したこと、船内荷役作業員が冨栄丸から機船バージニヤ号に乗船したことは認め、その余の事実は不知。(二)の事実は不知。(三)の事実は否認する。
4 同4(一)の事実のうち、被告全日海組合員四、五名が、艀日新第二〇〇号及び大芳丸第四に乗り移ったことは認め、被告全日海組合員四、五名が船積作業を妨害したことは否認し、その余の事実は不知。(二)の事実のうち、被告全日海が強硬な抗議の申し出をし、もし荷役を強行すれば荷役妨害が繰り返されることが予測されたことは否認し、その余の事実は不知。(三)の事実のうち、被告全日海の近畿地方支部組合員が乗り組んでいたボートが現場を去ったことは認め、その余は不知。
5 同5は争う。
6 同6の事実は不知。
7 同7は争う。
三 被告らの主張
1 バージニヤ号に関する便宜置籍船対策キャンペーンの経過
(一) 被告全日海組合員の池田らは、大阪港入港後バージニヤ号に対し査察活動を行った結果、乗組員は台湾クルーとミャンマークルーから成る混乗クルーであること、台湾クルーは国際運輸労連加盟組合の組合員であること、雇入契約書は所持していないこと、青色証明書は取得していないこと、乗組員は東京の正和航業を通じて乗船しているが、実質的な船主は原告東海商船であることが確認された。池田らは、同船船長を通じ、青色証明書を取得するよう正和航業に申し入れた。正和航業は原告東海商船と連絡を取った上で回答すると約束した。被告全日海は、杉本に対しても、バージニヤ号がキャンペーンの対象船にされ得る旨伝えた。杉本は自分からも原告東海商船に被告全日海の申入れを伝える旨約した。
(二) 昭和六二年一〇月三〇日、バージニア号に対する鋼材約一〇〇〇トンの荷役作業が行われた。被告全日海は、正和航業等から何ら連絡を受けなかったので、同日午後二時三〇分、翌三一日にバージニヤ号をキャンペーンの対象船にする旨決定し、大阪港湾労働組合協議会にその旨伝えるとともに、杉本と大阪港運協会に対してもその旨伝えた。これは荷役元請業者及びその経営者団体である同協会にキャンペーンに対する協力を求めたものであった。
杉本は、同日午後六時ころ、池田に対し、翌三一日は原告東海商船の指示で荷役を行わざるを得なくなったので、荷役作業員は午前八時ころにバージニヤ号に到着するが、キャンペーンには協力する、被告全日海が先に到着していれば、荷役はやらずに引き揚げる旨述べ、池田はそれを了解した。
(三) 前記ボイコットの方針は、大阪港湾労働組合協議会の傘下組合である大阪港湾労組大阪港湾作業支部及び日本貨物検数労組大阪支部を通じて、バージニヤ号で荷役作業と検数業務を行う作業員(全員が組合員)に対して、伝達された。
すなわち、ギャングのチームリーダーであった村上正明(以下「村上」という。)は、昭和六二年一〇月三一日に出社した際、同人所属の大阪港湾労組大阪港湾作業支部長坂本貞利(以下「坂本」という。)から、組合としてバージニヤ号に対する荷役を行わない指示を受けた。村上は、バージニヤ号に向かうボートの中で、ギャングのメンバーで組合員である荷役作業員約二四名に対して、坂本からの右指示を伝えた。同ボートに乗船していた中西は、村上の右伝達に対して異議を述べることなく、荷役作業員に対して荷役を命じることもなかった。
他方、検数員の広戸大治は、同月三〇日、バージニヤ号での検数作業終了後、同人所属の日本貨物検数労組大阪支部書記長の寺井から、翌日の同船での荷役作業は行われないので検数作業も行わない旨の指示を受け、同月三一日、ボートで出発するに際して、この指示を他の検数員全員に伝えた。こうして、荷役作業及び検数業務を行う各組合は、便宜置籍船対策大阪地方連絡会の方針として、荷役及び検数業務を行わないこととした。
(四) 被告柳田ら一一名の被告全日海組合員は、同月三一日午前七時三〇分ころ、組合旗を立て、横断幕を掲げたボートでバージニヤ号に到着した。杉本が乗ったボート及び中西ら荷役作業員が乗ったボートが、午前八時ころ到着したが、バージニヤ号船尾から右舷側に回ったので、被告全日海のボートもそれを追った。被告柳田及び池田は、ボート上の杉本に対し、被告全日海のボートが先に到着していれば作業員が引き揚げるという前日の約束を守らなかったことに抗議した。杉本は船上での話合いを提案したので、被告柳田、飛松及び池田三人が乗船し、その余の組合員はボート上で待機することとなった。
被告柳田ら三人は、舷門付近で杉本、長川らと話し合い、約束を守らなかった杉本に抗議するとともに、長川に対して、キャンペーン活動の趣旨を説明し、青色証明書取得に応じるか原告東海商船本社に連絡するよう求めた。
杉本及び長川は右本社に連絡したが、役員が出社しておらず、それを待つこととなった。荷役作業と検数業務の作業員は、通常は午前八時三〇分に作業開始の指示があって荷役と検数の作業に取りかかるが、同日は作業命令は出されなかったので、デッキや船艙等の部署に就かなかった。被告柳田らは船長室で船長とお茶を飲みながら右本社の返事を待った。
杉本は、午前九時三〇分ころ、被告柳田らに対し、「原告東海商船本社常務取締役の堀端(注。堀端保のこと。以下「堀端」という。)と連絡が取れたが、本社から物理的妨害がない限り荷役を行うよう言われた。原告東海商船に対して荷役ができなかったことの言い訳のため、貨物の鋼材の上に被告組合員が乗っている場面等の写真を撮りたい。」旨申し入れた。被告柳田は、右申入れが突飛で、馬鹿げたものであるとして激怒し、青色証明書取得に応じるか回答するよう要求した。しかし、被告全日海は、右申入れは、近畿港運が荷役事業者として港湾運送事業法に拘束される反面、被告全日海や大阪港湾労働組合協議会との間でトラブルを起こしたくないための策だと判断し、杉本の意を察して右写真撮影の申し出に応じることとした。長川は、その場で青色証明書に理解を示し、杉本の右申し出に異議を示さなかった。
飛松は、池田から右了解を伝えられ、他の組合員にもそのことを伝えた。飛松ら五名は、最初四番ハッチの右舷側に横付けした艀の写真を撮ることとなったので、艀に乗り移り、杉本及び中西から指示を受けた作業員は、艀に降りクレーン操作の配置に就いたが、鋼材を搬入する船艙内で作業する作業員は、船艙内に降りずデッキに止まった。
池田は、作業員が鋼材にロープを掛ける作業場面を撮影し、被告全日海が艀に乗り移って妨害している場面も撮影した。四番ハッチ側の艀での撮影終了後、二番ハッチ側の艀でも同様の撮影が行われた。午前一〇時すぎころ、二番ハッチでの撮影が終了した。
杉本は、写真撮影に謝意を述べ、原告東海商船には理由をつけて荷役はできなかったと取り繕っておく、当日はもう荷役は行わないと述べた。被告柳田は、近畿港運の責任回避より青色証明書取得の交渉に応じるよう原告東海商船に伝えて欲しいことを再度要求した。杉本は、引き続いて原告東海商船と連絡を取る旨約束した。
大港労組大阪港湾作業支部の組合員である荷役作業員は作業する意思はなく、同支部の指示により荷役は行なわない旨の態度を表明した。右組合員四、五名にも、勿論、作業妨害の意図はなく、また右事情からその必要は全くなかった。大阪港湾作業支部の組合員であったクレーンのオペレーターは、荷役を行わないことを承知していたので、鋼材を引き上げる意思はなく、実際に引き上げなかった。近畿港運側から右オペレーターに対し、荷役の業務命令も発令されなかった。右引揚げがなされなかったのであるから危険な状態はなく、また被告全日海が荷役作業を妨害したということもなかった。
中西は、午前一一時三〇分ころ、荷役作業員に対して「こういう状態だと作業はないと思うが、もし万一話がついたときに作業ができないと困るので、一ギャングだけ残しておこう」と言って、二ギャングのうち一ギャングを引き揚げさせた。被告全日海は、長川及び杉本に対し、残った一ギャングに作業を命じないことの確認を求めたところ、両名は作業を命じる意思はないことを表明した。
被告全日海組合員は、その後、ボートで待機し、荷役作業員は船内で待機した。その後、被告柳田は組合事務所に戻り、組合員はバージニヤ号で待機し、正午ころ、被告柳田が弁当を運んで戻ってきたので、再度、ボートに移って昼食を取った。
杉本は、昼食後、被告柳田及び池田をバージニヤ号上に呼び、原告東海商船本社から指示されたので荷役を始めたい、また写真を撮らせて欲しい旨述べた。被告柳田は、「午前中は協力したが青色証明書取得に応じるかどうかの回答がない。荷役はやらないと言ったのにまたやるということはどういうことか。荷役するなら勝手にやりなさい。」と抗議した。杉本及び長川は、本社と協議する旨述べ、被告柳田らはボートに戻った。
杉本は、午後二時すぎころ、被告柳田に対し、荷役を行う旨告げた。被告柳田はあきれて、約束事を次々に反故にするのであればどうぞ荷役をやってくださいと述べ、バージニヤ号から一〇〇メートル位離れたボート上で荷役がなされるか見守った。しかし荷役は行われなかった。ただし、左舷デッキに置かれていた荷役用資材(ダンネージ、フォークリフト)が船艙内に搬入された。
その後時間が経過し、午後四時すぎに作業員が引き揚げたので、被告全日海も引き揚げた。
このように、当日は被告らが原告東海商船等の船積作業を妨害した事実はない。
2 便宜置籍船対策活動について
(一) 国際運輸労連の便宜置籍船対策活動について
国際運輸労連は、便宜置籍船に関し、同船に乗り組む船員の雇用と労働条件の確保、便宜置籍船を本来あるべき船籍国、つまり実質的な船舶所有者、法人が所在する国へ取り戻すことを目的とした諸活動を行っている。
(二) 便宜置籍船対策の必要性と正当性
便宜置籍船は、昭和二五年以降世界的に急増した。反社会的、反労働者的性格を持つこれら便宜置籍船の大量出現は、他の船舶の安全運航や船員の雇用と労働条件に悪影響を与え、海上交通を混乱させ、海洋、海運をめぐるあらゆる問題に重大な影響をもたらした。
特に便宜置籍船が日本の労働者に与える影響としては、まず、雇用に対する直接的影響がある。すなわち、日本の船主は、昭和四五年以降、積極的に便宜置籍船を支持し、その新規建造、既存の日本船の便宜置籍船化、便宜置籍船の傭船、使用を急速に進めた。その結果、日本人船員の職場は縮小し外国人船員が職場に進出し、日本の船会社に在籍する外航船員は減少し、失業や離職中の船員が増加した。第二は、便宜置籍船が海運経営に与えた影響、その中で雇用される日本船員が受けた影響がある。すなわち、便宜置籍船においては、所有、売買に有効な規制がなく、労働者を世界的市場から自由に調達し、不要となれば容易に解雇できる。そのため便宜置籍船は、単なる魅力的な投機商品として注目され、慢性的過剰船腹の構造的要因を自ら招来し、船会社の経営困難の重大原因となり、労働者は解雇、賃金、労働条件の大幅な引き下げなどにより厳しい生活不安にさらされた。
そこで、右のような悪影響を排除するため、海洋及び海運の公正な秩序回復及び維持並びに適正な海上交通及び海上労働の確保のため種々の効果的規制が継続して検討されてきた。その規制の例としては、まず、昭和三三年に採択された「公海に関する条約」がある。同条約第五条は、船舶と登録国との間には「真正な関係」が存在しなければならないこと、及び「特に、その国は、自国の旗を掲げる船舶に対し、行政上、技術上、及び社会上の事項について有効に管轄権を行使し、及び有効に規制を行わなければならない」と規定した。第二は、昭和五一年に採択されたILO条約第一四七号「商船の最低基準に関する条約」である。便宜置籍船は便宜置籍国から何らの規制も受けず自由に労働力を調達できることから、結果的にアジア諸国を供給源とする船員が大量に出現する。ILOは、これら船員の人権を擁護し、労働生活環境に適正な基準を設定するため種々の条約及び勧告を採択したが、右条約第一四七号は国際海上労働における労働基準法としての性格を有し、同基準以下の船舶を排除しようとしている。第三は、IMO(国際海事機関)で採択された「一九七六年の船員の訓練及び資格証明並びに当直の基準に関する国際条約」(STCW条約)である。これは、海上事故を防止するための船員の知識、技能、当直の実施等に関する国際的な統一基準を設定したものである。第四は、ポート・ステイト・コントロール(入港国の監督下)である。ILO一四七号条約第四条は、日本国に登録されていない船舶(例えば便宜置籍船)が日本の港に寄港した場合、その船舶が条約が定める安全・労働等の国際基準に適合しているか否かにつき調査して、基準以下船を排除することをその趣旨、目的としている。そして、同条は、船舶の安全等につき利害関係を有する労働組合(海員組合、港湾労組等)に対して、ポート・ステイト・コントロールを発動させる苦情申立てをすることを認め、当該労働組合に右目的実現のための積極的な援助を期待している。すなわち、寄港した船舶の乗組員が寄港国の労働組合に所属していなくても、当該船舶内の安全基準や労働条件が国際基準に適合していないときは、寄港国の労働組合が政府機関に苦情申立てをする活動を認めた。右苦情申立ては、そのための調査を当然予定しており、この場合、船主と乗組員との間に労使紛争が存在することは不要である。したがって、寄港国の労働組合が当該船舶に対して国際的な労働基準等が適用されているかどうか、適用されていないときはその是正を求めるという活動は、海上における最低の労働条件等を遵守させる労働組合運動といえる。
3 被告全日海の便宜置籍船対策活動の正当性
(一) 被告全日海の便宜置籍船対策活動
被告全日海は、海上の安全、公正な海運活動秩序の維持、日本人船員の雇用、労働条件確保などの観点から、国際運輸労連の便宜置籍船対策に関する方針を支持し、日本の便宜置籍船政策に反対してきた。
被告全日海の便宜置籍船対策活動は、港湾労働者の全面的な支持と協力を得て進められている。被告全日海は、昭和五八年、本格的に便宜置籍船対策に取り組む方針を決定したが、便宜置籍船は単なる船員の問題ではなく、港湾労働者にとっても作業環境の安全問題等に密接な関係を有することから、昭和五九年、全国港湾労働組合協議会及び全日本労働総同盟交通運輸港湾協議会港湾部会(現在の全日本港運労働組合同盟)と連帯して便宜置籍船対策に取り組むことを合意した。これに基づき、主要港を中心に便宜置籍船対策地区協議会や連絡会が結成され、連帯活動が行われている。
(二) 原告東海商船の立場
原告東海商船は、パナマ共和国に原告タウラスをペーパーカンパニーとして設立し、バージニヤ号を同社からの定期傭船とする外形を取り、原告タウラスを通して、香港のマンニング会社との間でマンニング契約を結び、台湾やビルマ国籍の船長その他の乗組員の供給を受けた。原告東海商船は、バージニヤ号の労働条件を決定し、同船を実質的に支配管理しており、同船の実質的な船主である。つまり、同船は原告東海商船の便宜置籍船である。したがって、原告東海商船と同船の乗組員との間には支配従属の関係があり、原告東海商船はその使用者である。
(三) 本件における被告らの組合活動の正当性
バージニヤ号の船員二二名のうち、船長及び一等航海士を含む一四名の台湾国籍の船員は、いずれも国際運輸労連に加盟している台湾の船員組合である中華会員総工会の組合員であり、国際運輸労連及びその加盟組合である被告全日海は、本船における船員の労働条件及び職場環境等労働関係につき、利害関係を有していた。
被告全日海が、国際運輸労連の推進している便宜置籍船対策活動の一環として、同じ右労連のメンバーである船員組合所属の組合員が乗船している便宜置籍船が日本に寄港した際、その組合員の労働条件や職場環境等が、国際運輸労連の承認する水準を満たしているかどうかチェックし、国際運輸労連の承認する賃金水準その他の労働条件を満たす労働協約が適用されていることを証明する青色証明書をその船舶が携帯していない場合には、右労連傘下の組合員を含めた当該船員の労働条件や職場環境等を改善するため、その船主に対して青色証明書を取得するよう要請し、そのための交渉の申入れをすることは、労働組合として当然の、かつ正当な組合活動である。被告全日海の原告東海商船に対する便宜置籍船対策活動は、右労連が承認する公正な賃金水準その他の労働条件をバージニヤ号の乗組員に適用させ、保護することにあった。
そして、青色証明書取得に対して非協力的で、そのための交渉に応じようとしない船主に対しても理解と協力を求め、交渉に応ずるよう説得するために、港湾労働者の協力を得て、平和的説得の範囲内において荷役ボイコット等の抗議、要請行動を行うこともまた正当な組合活動である。これら活動は、憲法二八条、結社の自由及び団結権の保障に関するILO第八七号条約、団結権及び団体交渉権についての原則の適用に関するILO第九八号条約に照らして正当である。また、労働組合として、便宜置籍船の労働条件や職場環境等をチェックし、青色証明書取得を船主に要請することは、基準未達船舶、特に便宜置籍船を対象として制定された商船の最低基準に関する前記ILO第一四七号条約の趣旨、目的に適合する正当な行為である。
(四) 結論
被告全日海の便宜置籍船対策活動は、海上労働運動における国際的な、かつ極めて重大な要求であり、正当な労働組合運動である。右対策活動は、広く世界的規模で便宜置籍船の安全と乗組員の労働条件や職場環境を向上させ、公正な海上労働秩序を求めることにあり、労働条件等の紛争があるときにそれを解決する場合だけに行うものではないから、船主と乗組員との間に労働争議があることは必ずしも必要ない。
(乙事件)
一 請求の原因
1(一) ジャパン号の大阪港入港
原告東海商船は、昭和六三年三月一日以前に、原告ボランスとの間で、同社所有のジャパン号を目的とする定期傭船契約を締結し、定期傭船者として同船を利用して海上運送業務を行っていた。ジャパン号は、昭和六三年三月一日、鋼材と建設用機械の積荷のため、大阪南港C―六号岸壁に接岸したが、積荷が揃っていなかったため、同岸壁で係留待機した。
原告東海商船は、同月四日にジャパン号に対する船積貨物の荷役を予定し、大阪地区の運航代理店である近畿港運との間で、港湾運送(荷役作業)請負契約を締結した。近畿港運の下請である大阪港湾作業は、船内荷役作業員一五名、船内荷役に従事する大工六名、検数員四名及び検査員一名で右荷役を行うこととした。
(二) パシフィック号の神戸港入港
原告東海商船は、原告パシフィックとの間で、同社所有のパシフィック号を目的とする定期傭船契約を締結し、定期傭船者として同船を利用して海上運送業務を行っていた。原告東海商船は、元請荷受業者の上組との間で荷役作業の請負契約を締結し、上組は船内荷役業者の上津港運に荷役作業の下請を依頼した。
同船は、昭和六三年三月三日、鋼材と建設用機械の積荷のため、神戸港六甲アイランド岸壁(バース)K・Lに接岸した。
2 ジャパン号での妨害行為
(一) 被告全日海の大阪支部支部長である被告藤川は、大阪港湾労働組合協議会及び大阪港運協会等に対し、昭和六三年三月四日午前八時から、ジャパン号において荷役ボイコットを行う旨通知し、近畿港運は、大阪港運協会を通じ、右荷役ボイコットの通告を受けた。
(二) 被告藤川は、昭和六三年三月四日午前七時三〇分、被告全日海組合員一三、四名と共に、被告全日海の指令に基づき、組立式鉄パイプでジャパン号の舷門の周囲を閉鎖し、同所に被告全日海の旗数本を林立させ、岸壁と同船との交通を遮断し、組合員数名を監視に立たせてピケを完成させ、午前八時一〇分ころ、船積作業のためにジャパン号舷門付近に到着した船内荷役作業員一五名、船内荷役に従事する大工六名、検数員四名及び検査員一名を同船に乗船できないよう実力を持って妨害し、同妨害行為を同日午後四時すぎまで続けた。
被告藤川らの右行為は、近畿港運に対し、あらかじめ荷役ボイコットを行う旨通告した上で、荷役現場に被告全日海の旗数本を林立させる等してピケを張り、近畿港運に対し荷役を行わせない気勢を示し、もって近畿港運の自由意思を阻害し、同日予定していた鋼材、建築用機械の積込み作業を断念させ、荷役を妨害したものである。
3 パシフィック号での妨害行為
(一) 船内荷役作業員二組(三二名)及び荷役監督二名は、昭和六三年三月四日午前七時二〇分、船積作業の準備のため、神戸港に接岸中のパシフィック号に乗船した。
(二) 被告全日海組合員は、同日午前七時三〇分、同船舷門付近に到着し、同七時三五分には、更に同組合員八名が到着し、被告井上の指揮の下、同船舷門下に組立式鉄パイプによるピケの準備を開始し、午前八時にはそれを完了させた。同所には被告全日海の旗数本が立ち、岸壁とパシフィック号の交通は完全に遮断された。
(三) 乗船していた右作業員二組は、同日午前八時二〇分、貨物積込作業の準備を開始した。被告井上は、その指揮下にある組合員をパシフィック号の船艙に配置し、貨物積込みを監視させた。
そして、被告全日海組合員は、同日午前八時三二分、第二船艙へ船積みするため、クレーンによって巻き上げられようとしていた貨物積込用資材の船積作業を、実力をもって阻止した。また、右組合員は、同日午前八時三八分には、第四船艙へ船積みするためクレーンで巻き上げられようとしていた貨物ブルドーザーが地上約三〇センチメートル持ち上げられた際、これを手で押さえたり、足を掛けたりして右巻上げを実力をもって阻止した。そのため、作業員があえて右作業を強行すれば、人身事故が発生する危険があった。更に、右組合員は、右作業が強行されれば、同日の夜間作業及び翌日の荷役作業に対してもピケを張る等強硬な態度であった。右のような作業妨害が同日午後四時まで継続したため、同日における船積作業は中止された。
4 被告らの責任
(一) 甲事件の請求の原因5と同様である。
(二) 被告らの共謀による共同不法行為
被告全日海本部担当役員、被告藤川及び被告井上は、同本部の決定とその指令に基づき、共謀の上、被告全日海所属組合員を指揮して、ジャパン号及びパシフィック号に対してピケを張り、実力行使をもって原告らの荷役を妨害させた。
被告らの右各行為は、民法七〇九条、七一五条二項及び七一九条に該当する共謀による共同不法行為である。
5 原告らの損害
原告らは、被告らの前記不法行為により以下の損害を被った。
(一) 原告東海商船の損害
(1) ジャパン号関係
ア 荷役実行不可能による待機料相当損害金
① 船内荷役作業料一組分(待機時間は午前八時三〇分から午後四時三〇分。以下待機時間は⑥まで同じ。)三二万七五七〇円
② 荷役監督一名分二万八七三〇円
③ 船内荷役に従事する大工六名分一四万六四六〇円
④ フォークリフト六トン一台分四万九〇〇〇円
⑤ 検数員及び貨物積付計画図面作成員四名分一〇万八三六〇円
⑥ 荷役検査員一名一万二二六八円
⑦ 小計六七万二三八八円
イ 夜間荷役作業割増料金
① 荷役監督一名(三月五日午後四時三〇分から同月六日午前二時。以下待機時間は③まで同じ。)六万一四八〇円
② 船内荷役に従事する大工三三名分一七二万四二五〇円
③ 荷役検査人一名一万九四二九円
小計一八〇万五一五九円
ウ ア及びイの合計二四七万七五四七円
(2) パシフィック号関係
ア 荷役実行不可能による待機料相当損害金
① 船内荷役作業料二組分(早出期間午前七時三〇分から同八時三〇分までの一時間分)一一万一二八〇円
② 船内荷役作業料二組分(午前八時三〇分から午後四時三〇分)八八万二八二〇円
③ 荷役監督一名(午前七時三〇分から午後四時三〇分)二万八七三〇円
④ 船内荷役に従事する大工一〇名分(午前八時三〇分から午後四時三〇分。以下待機時間は⑦まで同じ。)二六万六八一〇円
⑤ フォークリフト3.5トン三台分九万五九六〇円
⑥ 検数員及び貨物積付計画図面作成員四名分一〇万八三六〇円
⑦ 荷役検査員一名一万二二六八円
小計一五〇万六二二八円
イ 船内夜間荷役作業関係
① 船内荷役作業料(三月五日午後四時三〇分から午後九時三〇分)七八万六四五六円
② 同(三月五日午後九時三〇分から同月六日午前四時)五八万五一〇四円
③ 船内荷役作業料(三月五日午後九時三〇分から同月六日午前四時。鋼材について)三二万七〇六五円
④ 同(待機時間は右に同じ。鋼材部品について)五万三三七〇円
⑤ 荷役監督一名(三月五日午後四時三〇分から同月六日午前四時三〇分)六万一四八〇円
⑥ 船内荷役に従事する大工二〇名(三月五日午後四時三〇分から同月六日午前四時)一一四万一九四〇円
⑦ 同二〇名(三月六日午前四時から午前四時三〇分)一二万〇二〇〇円
⑧ フォークリフト3.5トン三台分(三月五日午後四時三〇分から同月六日午前四時三〇分)一七万八二〇〇円
⑨ 荷役検査人一名二万四五五三円
⑩ 検数員及び貨物積付計画図面作成員(三月五日午後四時三〇分から午後九時三〇分)五万四七四三円
(同月五日午後九時三〇分から同月六日午前四時)
建設機械 五万八一〇七円
鋼材 五万七九五〇円
パーツ 七三二五円
小計三四五万六四九三円
ウ 港費関係
① 水先案内料一七万五〇〇〇円
② 曳船料二隻分七万五一六〇円
③ 船舶係留綱取料七万二九六〇円
④ 岸壁使用料一八万八六五三円、二万四〇〇〇円
小計五三万五七七三円
エ アないしウの合計五四九万八四九四円
(3) (1)及び(2)の合計七九七万六〇四一円
(二) 原告ボランスの損害
原告ボランスは、ジャパン号を原告東海商船に定期傭船に出し定期傭船料を取得していたが、被告らの前記不法行為によって、不稼働期間である昭和六三年三月四日午前七時三〇分から午後四時二〇分までの八時間五〇分間、同船の使用が不可能となったため、原告東海商船からオフ・ハイヤー(不稼働)として傭船料の支払を拒否された。また、原告ボランスは、同船の機関をいつでも稼働可能なように維持するため燃料油を消費した。よって、以下は、原告ボランスの損害となる。
(1) オフ・ハイヤーによる傭船料相当損害金米貨1459.78ドル
(2) 燃料代相当損害金米貨81.98ドル
以上計1541.76ドル
邦貨換算二〇万〇八九二円(一ドル130.30円で換算)
(三) 原告パシフィックの損害
前記(二)記載の理由と同じく、原告パシフィックは、昭和六三年三月四日午前七時三〇分から午後四時までの間につき、以下の損害を被った。
(1) オフ・ハイヤーによる傭船料相当損害金米貨2970.21ドル
(2) 燃料代相当損害金米貨237.37ドル
以上計3207.58ドル
邦貨換算四一万七九四八円(一ドル130.30円で換算)
6 結論
よって、原告東海商船は、被告らに対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、被告らの不真正連帯債務として、前記損害七九七万六〇四一円及びこれに対する不法行為が行われた後である昭和六三年三月五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求め、原告ボランスは、被告らに対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、被告らの不真正連帯債務として、前記損害二〇万〇八九二円及びこれに対する不法行為が行われた後である昭和六三年三月五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求め、並びに原告パシフィックは、被告らに対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、被告らの不真正連帯債務として、前記損害四一万七九四八円及びこれに対する不法行為が行われた後である昭和六三年三月五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求の原因に対する認否
1 請求の原因1(一)の事実のうち、原告ボランスがジャパン号を所有していたことは否認し、その余の事実は認める。
(二)の事実のうち、原告パシフィックがパシフィック号を所有していたことは否認し、その余の事実は認める。
2 同2(一)の事実は認める。(二)の事実のうち、被告藤川らが、被告全日海の指令に基づき、昭和六三年三月四日午前七時三〇分ころ、ジャパン号付近に被告全日海の旗数本を林立させたこと、船内荷役作業員、大工、検数員及び検査員らが荷役のためジャパン号付近に到着したこと、以上の事実は認め、船内荷役作業員、大工、検数員及び検査員の各人数は不知。その余の事実は否認する。被告藤川らは、昭和六三年三月四日午前七時三〇分ころ、ジャパン号舷門付近でキャンペーンの準備を始め、伸縮式ポール数本に組合旗と「便宜置籍船反対運動」の横断幕を掲げて行動を行っていることを宣伝したが、組立式パイプ等でジャパン号への出入りを物理的に妨害したり、実力でこれを阻止したりしたことはなかった。被告全日海組合員は同船舷門付近から離れた場所に組合旗を立てた。
3 同3(一)の事実は認める。(二)の事実のうち、被告全日海組合員が、同日午前七時三〇分から午前七時三五分にかけてパシフィック号舷門付近に到着し、被告井上の指揮の下、被告全日海の旗数本を立てたことは認め、その余の事実は否認する。(三)の事実のうち、乗船していた右作業員二組が、同日午前八時二〇分、貨物積込作業の準備を開始したこと、被告井上が、その指揮下にある組合員をパシフィック号の船艙に配置したこと、第四船艙の箇所の貨物ブルドーザーがクレーンで地上約三〇センチメートル持ち上げられたことは認め、その余の事実は否認する。
4 同4(一)は争う。(二)のうち、被告全日海本部担当役員、被告藤川及び被告井上が、同本部の決定とその指令に基づき、共謀の上、ピケを張り実力行使をもって、被告所属組合員を指揮して、原告らの荷役を妨害する行為を行わせたことは否認し、主張は争う。
5 同5の事実は不知。
6 同6は争う。
三 被告らの主張
1 被告らの組合活動の経過
(一) 被告全日海は、昭和六三年三月四日、原告東海商船の便宜置籍船であるジャパン号及びパシフィック号に対して、第一六次便宜置籍船対策キャンペーンを、大阪港と神戸港で行った。
(二) ジャパン号に対する活動
被告全日海大阪支部執行委員池田外二名は、昭和六三年三月二日、ジャパン号船長に青色証明書の携帯を尋ねたところ、携帯していないとのことであったので、船主原告東海商船とマンニング会社である正和航業に、青色証明書の取得につき交渉したい旨求めた。右船長はその旨伝えると約束した。
池田らは、同月三日、右船長から、前日の回答として、原告東海商船は国際運輸労連に協力しない旨の回答を受けた。その理由は明らかにされなかった。そこで被告全日海大阪支部は、同日、ジャパン号に対する前記キャンペーンを翌四日午前八時から行うことを決定し、便宜置籍船対策大阪地方連絡会のメンバーである大阪港湾労働組合協議会と全日本港湾運輸労働組合同盟に右行動に協力するよう要請した。大阪港湾労働組合協議会は、大阪港運協会に対して、右キャンペーンに協力する旨伝えた。それは、荷役作業員等で組織する大阪港湾労働組合協議会とその傘下の組合が、右活動を妨害してまで荷役作業を強行しないということを意味した。
被告藤川らは、昭和六三年三月四日午前七時三〇分ころ、ジャパン号舷門付近でキャンペーンの準備を始めた。伸縮式ポール数本に組合旗と「便宜置籍船反対運動」の横断幕を掲げて行動を行っていることを宣伝したが、ジャパン号への出入りを、組立式パイプ等で物理的に妨害したり実力で阻止したりはしなかった。被告全日海組合員は同船舷門付近から離れた場所で組合旗を立てた。
池田は、午前八時すぎに到着した杉本に挨拶し、また下船してきた原告東海商船大阪支店長日下武彦と名刺交換した。
荷役作業員や検数員らが乗込んでいたバスが一台、午前八時一〇分ころ到着した。池田は、港運同盟の後藤と共に作業員の責任者である村上に対し挨拶し、便宜置籍船キャンペーンに対する協力を求めた。その後同船から降りてきた杉本は、村上に対し引き続きバスの中で待機するよう指示し、バスは岸壁の端に移動した。この間、ジャパン号の舷門付近で作業員らと被告全日海組合員との間のトラブルが予測されるような状況はなかった。
ところで、大阪港湾労働組合協議会は、前年のバージニヤ号の事件の反省から、被告全日海の便宜置籍船キャンペーン中にトラブルが発生しないよう万全の措置を採るため、被告全日海の支援から共闘へと方針を強化した。そこで、大阪港湾労働組合協議会事務局長黄金一臣(以下「黄金」という。)は、前日の三月三日に、作業員らに対し、翌四日の混乱を避けるため、ピケットの旗を見た際にはバスから降りないよう、強行荷役を行わないよう指令した。そのため同四日朝もバスは旗を見て引き返した。杉本も大阪港湾労働組合協議会の方針が支援から共闘に変わったことの意味を認識していたため、被告全日海が話合いを求めている段階でバスが到着した際、待機の指示を出したのである。
被告藤川、池田及び後藤は、午前八時一五分ころから、ジャパン号において、日下、長川及び杉本に対し、青色証明書取得に応じるよう交渉を申し入れた。その結果、日下は、青色証明書取得の交渉に応じるか本社の意向を聞くことになり、被告藤川らは下船してその返事を待った。
しかし、日下は、午前一一時ころ、本社から荷役を行うよう指示されたので荷役をやりたいが、青色証明書取得については明確な返事はもらえなかったと伝えた。杉本は、日下に対し、大阪港運協会は大阪港湾労働組合協議会からキャンペーン中は荷役を強行するなとの申入れを受けているので自分の判断だけではどうしようもない、今から会社に戻って社長と相談してくると述べ、原告東海商船本社から荷役をなぜやらないのか詰め寄られたが、会社に戻った。岸壁で待機していた作業員には作業命令は出されなかった。
杉本が近畿港運社長の宮崎と善後策を協議した結果、ジャパン号の荷役の進め方につき、宮崎と黄金との間で会談が行われることとなった。宮崎は、大阪港湾作業社長の広田と共に黄金と会い、当日の荷役は行わないが、神戸港と同様に荷役用機材の積上作業と沿岸作業(ブルドーザーの横持ち)は行いたい旨申し出た。黄金は、岸壁で、同申し出を被告全日海に伝え、被告全日海もこれを了承した。その後、大阪港運協会は、黄金に対し、神戸港でのキャンペーンは午後四時三〇分で終わるので大阪港でも同様時間を短縮するよう要望した。黄金は、坂本を同行して再度岸壁に向かい、午後二時三〇分ころ、被告全日海にその旨伝え、神戸港について右事実が確認されたので、大阪港でも午後四時三〇分でキャンペーンを終了させることとなった。この結果、沿岸に運ばれていた重機等トラックやラッシング資材等がジャパン号に搬入された。したがって、荷役ができなかったのは、被告藤川らと日下らとのジャパン号での話合いが決裂したからではなく、荷役を行わない合意が右のとおり成立したからである。
このように、被告全日海のジャパン号に対する右キャンペーンは平穏裡に行われたのであり、岸壁と船舶との交通を遮断したとか、荷役作業員らを乗船できないよう実力をもって妨害したとか、それが原因で鋼材、建設用機械の積込み作業が実行不可能となったということはなかった。
(三) パシフィック号に対する活動
神戸港便宜置籍船対策会議は、昭和六三年三月四日、パシフィック号に対して、青色証明書取得の交渉を行うよう申し入れた。被告井上ら被告全日海の組合員は、同日午前七時三〇分ころ、パシフィック号舷門付近で便宜置籍船対策キャンペーンの準備を開始した。すなわち、伸縮式ポール数本を立てて組合旗と国際運輸労連の横断幕を掲揚し行動を行っていることを宣伝した。
被告井上ら組合員は、午前八時三〇分ころ、乗船していた荷役作業員に対して右キャンペーンに協力するようその理解を求めた。この時、二番ハッチにおいて、ダンネージ(貨物積込用資材)のクレーンによる巻上げ作業自体が開始されたことはなかった。被告全日海組合員は、積込み関連資材の搬入を拒否したことはなく、また、右作業を実力で阻止したこともなかった。むしろ、当日は、まず神戸港のパシフィック号でのダンネージ等の関連資材の搬入を認めたとの情報が大阪港に伝えられ、同港のジャパン号でもこれに歩調を合わせて、関連資材の搬入が右キャンペーンの協力要請の対象から外され認められるに至ったのである。
その後、第四ハッチ付近の岸壁でブルドーザーの巻上げのための準備作業が、荷役作業を直接に担当していた上津港運の作業員によって開始された。上組神戸支店港湾事業部海務課長で責任者である川田昇(以下「川田」という。)が作業を統括した。ブルドーザーが地上三〇センチメートルの位置まで巻き上げられたところで一旦停止し、川田がブルドーザーのキャタピラ後部の端に手を触れた。右巻上げが一旦停止されたのは、荷役作業者側から、荷役作業に取りかかったという外観を作らせて欲しいという申入れが事前にあり、被告全日海がそれを受け入れたからである。そして、被告全日海組合員の被告井上及び藤井はキャタピラに手や足を掛け、川田と話合いを行うに至ったのである。したがって、被告全日海組合員らの行為が原因となって巻上げ作業が実力で妨害され中止されたわけではなく、巻上げ作業が一旦停止した後、被告全日海組合員が手や足を掛け、話合いが始まったのである。
川田は、本件の問題が被告全日海と原告東海商船間の問題なので、両者の間で話合いをして欲しい旨述べ、パシフィック号内のスモーキングルームで話合いが行われた。被告全日海から被告井上、藤井、森崎が、神戸港湾から増井正行(以下「増井」という。)が、原告東海商船から山本英樹が、上組から神戸支店港湾事業部長代理久保昌三(以下「久保」という。)及び川田が、午前八時四五分ころから、右話合いに参加した。被告井上は、便宜置籍船対策キャンペーンに対する理解を得るため、ポートステートコントロール等の説明をし、青色証明書取得のための協議の場を設けて欲しいこと、日本人船員五名の配乗を認めて欲しいことを求めた。これに対し、山本英樹は、本社と連絡すると述べた。被告井上らは岸壁で待機したが、午後四時まで何の連絡も受けなかった。この間、原告東海商船側から荷役作業員らに対して荷役に関する業務命令は出されず、作業も行われなかった。したがって、荷役妨害なるものも存在し得なかった。
被告全日海は、午後四時以降は、キャンペーンを続ける予定はなく、当日の夜間作業や翌日の荷役作業に対してピケを張るという強硬な態度は取らなかった。
当日、原告東海商船側は荷役作業を遂行する体制でなかった。それは、パシフィック号のホールド内でブルドーザー巻上げのための準備がされていなかったこと、右巻上げがヒーブラインを取り付けずに行われており、重量物の巻上げの通常の作業手順と違っていること、巻上げ作業につき無資格者の川田が指揮、監督に直接当たり上津港運の作業員に合図を送っていること、当日パシフィック号内にいた作業員は前日からオールナイトで作業して残っていたグループであったこと、当日パシフィック号が接岸していた神戸港六甲アイランドKL岸壁はいわゆる専用バースであったにもかかわらず、被告全日海組合員を入門させ、ヘルメットを着用しない増井、中村その他港湾労組役員若干名の入構まで認めたことからも明らかである。これらの事実は、神戸港で被告全日海と港湾関係労組との協力共同体制が組織され、これに基づきパシフィック号での便宜置籍船対策キャンペーンについて事前の通告と協力要請がされたことによるのである。
このように、被告全日海の行為は、組合旗や国際運輸労連の横断幕を岸壁に掲示しての宣伝行動、上組、上津港運及び原告東海商船関係者に対して理解と協力を求める要請活動、最終的には原告東海商船側の責任者と現場で青色証明書取得をめぐる協議に入るか否かについての話合いを行っただけにすぎず、パシフィック号におけるこれらの行為は平和的説得の範囲内であった。
2 被告らの組合活動の正当性
(一) 原告東海商船の立場
原告東海商船は、ジャパン号及びパシフィック号の労働条件を決定し、同船を実質的に支配管理しており、同船の実質的な船主である。したがって、原告東海商船と同船の乗組員との間には支配従属の関係があり、原告東海商船はその使用者である。
(二) 本件における被告らの組合活動の正当性
被告全日海が、国際運輸労連の推進している便宜置籍船対策活動の一環として、乗組船員の労働条件等が低劣であり、かつその安全性にも問題がある便宜置籍船が日本に寄港した場合、その乗組員の労働条件や職場環境等が、右労連の承認する水準を満たしているかどうかチェックし、右労連の承認する賃金水準その他の労働条件が適用されていることを証明する青色証明書を携帯していない場合には、当該船員の労働条件や職場環境等を改善するため、その船主に対して青色証明書を取得するよう要請し、そのための交渉の申入れをすることは、労働組合として当然かつ正当な組合活動である。被告全日海の原告東海商船に対する便宜置籍船対策活動は、右労連が承認する公正な賃金水準その他の労働条件をジャパン号及びパシフィック号の乗組員に適用させ、保護することにあった。
被告全日海の便宜置籍船対策活動は、海上労働運動における国際的な、かつ極めて重大な要求であり、正当な労働組合運動である。右対策活動は、広く世界的規模で便宜置籍船の安全と乗組員の労働条件や職場環境を向上させ、公正な海上労働秩序を求めることにある。右活動を行うに当たって、船主と船員との問に労働争議が存在する必要はない。
3 その他、便宜置籍船対策活動、被告らの組合活動の正当性及び原告らの主張に対する反論については、前記(甲事件)二「被告らの主張」の2及び3記載の各主張と同様である。
第四 甲事件についての判断
一 憲法二八条は、勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利を保障している。その本旨は、労使間の団体交渉によって、労働組合を組織する労働者と使用者との間の労働契約関係の内容をなす労働条件が対等に決定されるようにすることを保障することにあるものと解され、直接労使関係に立つ者の間の団体交渉に関係する行為を保障の本体とするものであることは疑いがないが、労働条件は、現実に存する社会、経済その他の要因によって大きく左右され得るものであり、そのような外的な枠組みの中で行われる労使間の団体交渉によって具体的に決定されるものであるという実質を考えると、労働組合が労働条件の改善を目的として行う団体行動である限りは、それが直接労使関係に立つ者の間の団体交渉に関係する行為ではなくても、同条の保障の対象に含まれ得るものと解するのが相当である。すなわち、同条の保障の対象は、労働契約関係にある労働者と使用者との間の労働契約関係の内容をなす労働条件に関し、労働者が団結して労働組合を組織し、これを自主的に運営する行為、争議行為その他の団体行動並びにその労働組合が使用者との間において行う団体交渉及びこれに直接関係する行為が本体となるが、それだけでなく、右労働条件の改善を目的として労働組合が直接には労使関係に立たない者に対して行う要請等の団体行動も、同条の保障の対象となり得るものと解するのが相当である。しかしながら、このような団体行動については、同条の保障の本体となる行為のうち、集団的な労務の不提供を中心的内容とする争議行為と異なり、自由権的効果に同条の保障の意義があり、そのような団体行動を受ける者の有する権利、利益を侵害することは許されないものと解するのが相当であるから、これを行う主体、目的、態様等の諸般の事情を考慮して、社会通念上相当と認められる行為に限り、その正当性を肯定すべきである。
本件では、バージニヤ号に関し被告全日海と原告東海商船との間に団体交渉の行われるべき労使関係が存するものではないが、被告全日海が原告東海商船に対して行った便宜置籍船対策活動は、国際運輸労連の承認する賃金水準その他の労働条件を満たす労働協約の適用を受けさせることにより、間接的に被告全日海の組合員の労働条件の維持・改善を目的とするものであると認められる(弁論の全趣旨によりこれを認める。)から、右便宜置籍船対策活動は、これを行う主体、目的の面では不当なものということはできないし、これを行うについて船主と船員との間に労働争議が存在する必要がない旨の被告らの主張も、これを是認することができる。そこで、右便宜置籍船対策活動が正当な行為と認めることができるか否かは、具体的な行為の態様が特に問題となる。
二 被告全日海によるバージニヤ号に対する荷役の妨害行為の有無(不法行為の成否)について
1 被告全日海によるバージニヤ号に対する荷役ボイコットの抗議行動の決定と実施のための働きかけについて
乙第一二号証、第二〇号証、証人杉本幸夫の証言(平成元年九月八日付け証人調書一二項から一五項まで)、証人池田秀男の証言(平成四年一月二〇日の証人調書四一項から五八項まで、六四項から七四項まで、七六項から八五項まで、[反対尋問]平成四年四月六日の証人調書一九〇項から一九四項まで、二二六項から二三〇項まで)及び被告柳田栄本人尋問の結果(平成七年四月二〇日の本人調書三項から二一項まで、平成七年七月一三日の本人調書一〇二項から一〇五項まで)並びに弁論の全趣旨を併せて考えれば、次の事実を認めることができる。
被告全日海近畿地方支部は、昭和六二年一〇月三〇日、同月三一日にバージニヤ号に対するキャンペーン(宣伝活動)として荷役ボイコットを行うことを決定したが、これは被告全日海が従来から行ってきている便宜置籍船対策活動の一環として行うものであった。被告全日海近畿地方支部は、大阪港湾労働組合協議会及び同盟交通運輸港湾協議会と共に便宜置籍船対策大阪地方連絡会を構成しており、大阪港湾労働組合協議会に対し、同月三〇日付け「第一五次FOCキャンペーンの抗議行動について」と題する文書(乙第二〇号証)を送付して荷役ボイコットの抗議行動を行う旨通知し、その協力を求めた。また、被告全日海近畿地方支部は、大阪港運協会に対しても、同月三〇日付け「第一五次FOCキャンペーンの抗議行動について」と題する文書(乙第二一号証)を送信して荷役ボイコットの抗議行動を行う旨通知し、その協力求めた。さらに、被告全日海近畿地方支部の池田において、近畿港運の杉本に電話をかけて、右のとおり荷役ボイコットを行う旨通知した。池田は、杉本の話から、被告全日海近畿地方支部のキャンペーンのボートがバージニヤ号まで行っていれば、近畿港運の率いる作業員はバージニヤ号に乗船せずに引き揚げる方針であると理解した。大阪港湾労働組合協議会は、大阪港運協会に対し、昭和六〇年四月四日付け「便宜置籍船及びマルシップに関する申し入れ」と題する文書(乙第一二号証)をもって、被告全日海近畿地方支部の行う便宜置籍船対策活動の過程で紛議が生じた場合、大阪港湾労働組合協議会としては強行就労を行わないことを機関決定したこと、大阪港において無用のトラブルをさけるため強行作業を行わせないよう大阪港運協会傘下各店社への徹底方をはかるよう申し入れており、被告全日海近畿地方支部は、近畿港運及び大阪港湾作業が、右申入れに従って、荷役作業を強行しないよう働きかける意図で、前記のとおり連絡したものであった。
2 昭和六二年一〇月三一日午前中における鋼材巻上げ作業の着手と被告全日海近畿地方支部組合員の行動について
甲第四号証の一ないし同号証の五、第六号証、第七号証、第一八号証、乙第五号証の一、第六号証の一、第七号証、証人杉本幸夫、同中西重吉、同長川久雄、同池田秀男及び同飛松三男の各証言、被告柳田栄本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる(各項の末尾に認定の根拠とした証拠を更に掲げた。)
(一) 被告柳田、池田外一〇数名の被告全日海近畿地方支部組合員は、昭和六二年一〇月三一日午前七時すぎころ、大阪通船すみよし丸に被告全日海の旗七、八本を林立させてこれに乗船し、午前七時三〇分ころバージニヤ号付近に至り、同船の荷役を監視する態勢を取った。大阪港湾作業取締役船内部長中西外作業員二八名及び大工作業員六名を乗せたボート冨栄丸と近畿港運の杉本らを乗せたボートは、午前八時二〇分ころバージニヤ号付近に到着したが、バージニヤ号の左舷舷梯(タラップ)付近に被告全日海のボートがいたため、これを迂回してバージニヤ号の右舷側に回った。被告全日海のボートもこれを追って右舷側に回った。被告全日海近畿地方支部の被告柳田、池田は、海上で、杉本に対し、被告全日海のボートがキャンペーンをしているのに、近畿港運及び大阪港湾作業のボートが引き返さず、バージニヤ号に作業員を乗船させていることに抗議した。これは、池田が、前日の杉本の話から、被告全日海近畿地方支部のキャンペーンのボートがバージニヤ号まで行っていれば、近畿港運の率いる作業員はバージニヤ号に乗船せずに引き揚げる方針であると受け取っていたためであった。杉本は、荷役をさせてほしいと答え、バージニヤ号上で話し合うことを提案したので、被告全日海近畿地方支部の被告柳田(支部長)、飛松(副支部長)及び池田(執行部員)の三人がバージニヤ号に乗船した。
こうしてバージニヤ号において、長川、杉本らと被告全日海近畿地方支部の被告柳田外二名が話し合った。被告柳田及び池田は、杉本に対し、前日の杉本の話では、被告全日海近畿地方支部のキャンペーンのボートがバージニヤ号まで行っていれば、近畿港運の率いる作業員はバージニヤ号に乗船せずに引き揚げる方針とのことであったとして、話が違うと抗議した。これに対し、杉本は、原告東海商船が荷役実施を求めているので、荷役をさせてほしいと求めた。しかし、被告柳田らは、これを了承せず、原告東海商船に青色証明書取得の件についての回答を求めるよう要求した。
そこで、長川は、午前八時三〇分ころ、原告東海商船東京本社に電話したが、常務取締役堀端が出社しておらず、本件に関する連絡が取れなかった。この間、中西らは、被告柳田らに告げた上で、ボートで運んできた荷役用資材のダンネージやワイヤー類及びフォークリフト三台をバージニヤ号のデッキ上に巻き上げた(しかし、これらの資材はまだ船艙内には運び込まなかった。)。中西が被告柳田らに荷役をとめる方法を尋ねると、荷物の上に座るなり乗るなりするという話であった。
(甲第四号証の一、第六号証、第七号証、乙第五号証の一、第六号証の一(①から⑥まで)、証人杉本幸夫の証言(平成元年九月八日付け証人調書一九項から四〇項まで、九四項から九六項まで、平成元年一二月一五日付け証人調書[反対尋問]一五項から一九項まで、二一一項から二四九項まで。なお、三一三項及び三一四項は採用しない。)、証人中西重吉の証言(二六項から三六項まで、三八項から四三項まで、[一三五項以下は反対尋問]三一五項から三三一項まで、三三四項から三三五項まで。)、証人長川久雄の証言(平成三年六月一一日の証人調書六一項から六五項まで、一四五項、一七一項、[二九五項以下は反対尋問]二九五項から三一七項まで、三二八項から三五一項まで。)、証人池田秀男の証言(平成四年一月二〇日の証人調書八六項から一二四項まで、一二六項から一三四項まで、[反対尋問]平成四年四月六日の証人調書一項から七項まで、一二項から五九項まで。)、証人飛松三男の証言(六項から三一項まで、三九項から七七項まで、[二一六項以下は反対尋問]二八三項から二八六項まで、三七六項から三七九項まで。)、被告柳田栄本人尋問の結果(平成七年四月二〇日の本人調書二二項から三二項まで、平成七年七月一三日の本人調書九八項から一四二項まで、一五五項から二一一項まで。))
(二) 長川は、午前九時三〇分ころ、原告東海商船東京本社常務取締役堀端と連絡がつき、現場状況を報告し、とりあえず被告全日海を説得して妨害を排除し、話合いがつかなければ被告全日海の抵抗のため荷役が物理的に不可能な状態に至らない限り、荷役を実行するようにとの指示を受けた。長川は、その旨を杉本に指示し、近畿港運のフォアマンにも指示した。杉本は、その旨を被告柳田らに告げたが、被告柳田らは、荷役の実施を了承して退去するという措置を執ることなく、あくまでも青色証明書取得の件での前進を求めていたので、杉本は、長川の指示に基づき、午前九時三五分ころ、作業員に対し荷役開始を指示し、第二船艙、第四船艙及び艀のハッチカバーを開けさせ、準備作業に入った。しかし、長川、杉本、中西とも、海上での生命、身体への危険を伴う作業であることにかんがみ、危険の発生防止を最重点としており、杉本は、中西に対し、安全が確認されるまでスリングワイヤーのたるみはとっても、絶対に巻き上げないよう指示し、中西も、クレーンを操作する者に対し、巻上げの指示を出すまで絶対に巻き上げないよう指示した。また、デッキ上の荷役用資材の一部が船艙内へ搬入されたものの、フォークリフト等の搬入はまだ行われず、また、大工の外は作業員は船艙内で待機していなかった。
大阪港湾作業の作業員は、牛前九時五五分ころ、バージニヤ号第四船鎗右舷側に接舷中の艀大芳丸において、バージニヤ号のクレーンに吊るされたスリングワイヤーが大芳丸上の鋼材(スクウェアキューブ)に向かって降ろされるのを受け取り、一番上の鋼材にスリングワイヤーを掛けた。被告全日海近畿地方支部組合員の飛松ら四名は、大芳丸に乗り移り、大阪港湾作業の作業員が右の作業をするのを見ていたが、スリングワイヤーが掛けられ、まだたるんでいてぴんと張っていない状態のときに鋼材上に五人とも乗った。被告全日海近畿地方支部組合員は、鋼材上に乗るまでの間、大阪港湾作業の作業員の抵抗に遭うこともなく、何らの有形力を行使したわけでもなかった。しかし、被告全日海近畿地方支部組合員が鋼材上に乗ったことによって、鋼材を巻き上げると危険であり、客観的には作業を続けることはできない状況となった。中西は巻上げの指示を出さなかった。
また、同じころ、被告全日海組合員四名が、バージニヤ号第二船艙右舷側に接舷中の艀日新二〇〇号に乗り移り、スリングワイヤーが掛けられた鋼材(チャンネル)上に乗った。被告全日海近畿地方支部組合員が鋼材上に乗るまでの間格別混乱はなかったが、被告全日海近畿地方支部組合員が鋼材上に乗ったことによって、鋼材を巻き上げると危険であり、作業を続けることはできない状況となった。中西は巻上げの指示を出さなかった。
長川は、午前一〇時ころ、荷役作業責任者のフォアマン(近畿港運の者)に巻上げを中止するよう指示し、午前一〇時一五分ころには原告東海商船東京本社常務取締役堀端に状況を報告し、いったん作業を中止することもやむを得ないとの判断を受けて、杉本にその旨を話し、作業中止を指示したため、作業員も艀からバージニヤ号に上がり、荷役作業は中止となった。
被告全日海近畿地方支部組合員は、杉本に対し、荷役作業を行わないことの確認を求め、杉本は、被告全日海近畿地方支部組合員が監視している危険な状況化では荷役作業を行う意思がないことを答えた。
(甲第四号証の三ないし同号証の五、第六号証、第七号証、乙第六号証の一(⑧、⑩から⑮まで、⑰からまで)、証人杉本幸夫の証言(平成元年九月八日付け証人調書二六項から八五項まで、八八項から九一項まで、一二一項から一二五項まで、平成元年一二月一五日付け証人調書[反対尋問]二九項から二一〇項まで、二六五項から二七九項まで、三〇七項、三一七項から三二七項まで。平成元年九月八日付け証人調書五七項及び平成元年一二月一五日付け証人調書三〇八項から三一一項までは採用しない。)、証人中西重吉の証言(三六項、三七項、四四項から四六項まで、五四項から七五項まで、九九項から一一四項まで、[一三五項以下は反対尋問]一五九項、一七八項、二一六項から三三九項まで)、証人長川久雄の証言(平成三年六月一一日の証人調書六六項から一〇六項、一一四項から一二三項、一四六項から一五四項まで、[二九五項以下は反対尋問]三一二項、三五二項から四五一項まで、平成三年九月二四日の証人調書一項から八五項まで。六九項は採用しない。)、証人池田秀男の証言(平成四年一月二〇日の証人調書一二五項、一三五項から一七二項まで、平成四年三月九日の証人調書一項から一三三項まで、一六六項から一八〇項まで、[反対尋問]平成四年四月六日の証人調書六〇項から一八九項まで、二三一項から三七三項まで、四〇五項から四二七項まで、[再主尋問]五〇三項から五〇七項まで。)、証人飛松三男の証言(七八項から一七六項まで、一八九項から二〇二項まで、[二一六項以下は反対尋問]二九〇項から三六二項まで。)、被告柳田栄本人尋問の結果(平成七年四月二〇日の本人調書三三項から九九項まで、平成七年七月一三日の本人調書一四七項、二一二項から二二一項まで。)、弁論の全趣旨)
3 昭和六二年一〇月三一日午後の作業について
長川は、原告東海商船本社課長川崎から、午後零時三〇分、荷役再開の指示を受けたが、杉本も中西も下船して会社に戻っていたため、午後一時過ぎに杉本及び中西に電話で連絡した。長川は、午後二時ころ、杉本及び中西がバージニヤ号に戻ったので、両者と打ち合わせをした上で荷役再開を決定した。杉本は、被告柳田らに対し荷役開始を通告したが、被告柳田らは、青色証明書取得の件での前進がなく、あくまでも荷役を行うというのならば行えばよいと述べて、ボートでバージニヤ号から離れた場所に移り、監視態勢を続けた。
中西は、午後二時ころ、作業員全員をバージニヤ号の事務室に集め、被告全日海を支援しているから作業を行いたくないという作業員の発言に対し、業務命令であるから断固行えと命じ、第二船艙、第四船艙及び艀の作業配置に就かせた。
バージニヤ号の第二及び第四船艙のハッチカバーは天候不順のためいったん閉じられていたが、午後二時三五分ころ、バージニヤ号の第四船艙及び艀のハッチカバーが開けられ、作業員が配置された。午前中デッキに仮置き中の荷役用資材ダンネージ、ワイヤー類及びフォークリフトが船艙内に積み込まれ、フォークリフトを走行させるため鉄板敷作業及びダンネージ敷作業、一部フローリングが行われた。
杉本は、午後三時二〇分ころ、上記作業が完了しそうになったので、作業員を艀内に乗り込ませた。被告全日海のボートはバージニヤ号に接舷中の艀から離れた場所で待機していた。
長川は、船艙内への積込み準備作業が終了間近となったので、午後三時三五分、川崎に電話連絡し、その後、作業終了時刻の午後四時までに一回か二回くらい鋼材の積込み作業を行うことは可能であったものの、無理をすることを避け、作業終了の指示(ノックオフ)を出した。午後四時、作業員らは退船した。なお、日本貨物検数協会大阪支部現業一課検数員でバージニヤ号での検数作業のチームリーダーであった広戸大治は、検数協会配置係に、非組合員の管理職である検数係を派遣するよう要請し、検数協会は、三名の管理職をバージニヤ号に派遣したが、これら三名も結局何の作業もすることなく帰った。
被告全日海のボートは、午後四時三〇分ころ、バージニヤ号付近から立ち去った。
(甲第六号証、第七号証(同号証中、午後一時に「荷役開始する旨長川キャプテンより全日海側に通告」したところ、「全日海側よりも強い抗議の発言あり。午前中の強行が繰り返されることが予想される状況であった」との記載部分は、証人長川久雄の証言(平成三年九月二四日の証人調書一三四項から一三七項)に照らし採用しない。)、第一八号証、乙第六号証の一(からまで)、証人杉本幸夫の証言(平成元年九月八日付け証人調書九七項から一二〇項まで、平成元年一二月一五日付け証人調書[反対尋問]二二七項から二三一項まで、二四四項から二四七項まで、二五〇項から二六一項まで、三一五項。平成元年九月八日付け証人調書一一七項は採用しない。)、証人中西重吉の証言(九一項から九四項まで、一一五項、一二〇項から一三二項まで、[一三五項以下は反対尋問]三一五項から三一六項まで、三二九項から三三二項まで、三三八項。)、証人長川久雄の証言(平成三年六月一一日の証人調書一五七項から一九一項、[二九五項以下は反対尋問]四五五項から四六三項まで、平成三年九月二四日の証人調書八六項から一四〇項まで。平成三年六月一一日の証人調書一七七項、一八五項、平成三年九月二四日の証人調書一二五項、一二八項、一二九項及び一三三項は採用しない。)、証人池田秀男の証言(平成四年三月九日の証人調書一三四項から一六五項まで、一八一項、[反対尋問]平成四年四月六日の証人調書三九〇項から四〇四項まで。)、証人飛松三男の証言(二〇三項から二一五項まで、[二一六項以下は反対尋問]三六三項から三七五項まで。)、被告柳田栄本人尋問の結果(平成七年四月二〇日の本人調書一〇五項から一一九項まで。))
4 右1から3までの各事実に、乙第一八号証及び弁論の全趣旨を併せて考えれば、次のとおり認めることができる。すなわち、被告全日海近畿地方支部の地方支部長被告柳田らは、便宜置籍船対策活動の一環として、昭和六二年一〇月三一日にバージニヤ号に対する荷役が実施されないようにし、もって、原告東海商船に譲歩を迫ることを企図し、この目的実現のために、大阪港湾労働組合協議会の協力を得てこれを通じて大阪港湾作業の作業員に作業を行わないよう働きかけ、大阪港運協会に対しても協力を要請し、近畿港運及び大阪港湾作業が、右申入れに従って、荷役作業を強行しないよう働きかけた上、大阪通船すみよし丸に一〇数名の被告全日海近畿地方支部の組合員を乗船させ、被告全日海の旗七、八本を林立させ、バージニヤ号付近に至り、原告東海商船が荷役を断念するまで付近にとどまって同船の荷役が行われないようこれを監視する態勢を取っていた。そして、被告全日海近畿地方支部の地方支部長被告柳田らは、バージニヤ号で交渉して青色証明書取得の件での前進を求めたが、原告東海商船が被告全日海近畿地方支部の要求に譲歩する姿勢を示さず、被告全日海近畿地方支部組合員の抵抗のため荷役が物理的に不可能な状態に至らない限り、荷役を実行する意思であり、原告東海商船の荷役実行の指示が長川を通じて杉本に伝達されたことを杉本から知らされ、近畿港運及び大阪港湾作業が港湾運送事業法により港湾運送を拒絶できず、荷役を行わざるを得ないことを知りながら、近畿港運及び大阪港湾作業の立場を慮り荷役の実施を是認してバージニヤ号付近から退去するという措置を執ることなく、かえって、艀内の鋼材にスリングワイヤーが掛けられると、鋼材上に人が乗れば作業を続けることができなくなることを認識しながら、数名の被告全日海近畿地方支部の組合員に鋼材上に乗る行為をさせたものである。
右事実によれば、昭和六二年一〇月三一日のバージニヤ号の荷役に関し、被告全日海の近畿地方支部地方支部長被告柳田らは、大阪港湾作業の作業員に対して暴行を働く等の有形力の行使を全く行っておらず、格別混乱を引き起こしたわけでもなかったが、原告東海商船があくまでも荷役を実施する意思である以上、近畿港運及び大阪港湾作業が港湾運送事業法により港湾運送を拒絶できず、荷役を行わざるを得ないことを知りながら、近畿港運及び大阪港湾作業の右の立場を慮り荷役の実施を是認してバージニヤ号付近から退去するという措置を執ることなく、かえって、数名の被告全日海近畿地方支部の組合員にスリングワイヤーが掛けられた鋼材上に乗る行為をさせたものであるから、荷役の実施の障害となる意味を持つ行為であることを認識しながら、あえてこれを行ってしまったものであり、被告柳田らとしては、原告東海商船が譲歩しない限り、あくまでも近畿港運及び大阪港湾作業に荷役を行わせないようにする意思を貫くことを黙示に示してしまったものというほかはない。したがって、近畿港運及び大阪港湾作業は、被告全日海の近畿地方支部地方支部長被告柳田らの前記行為のために、バージニヤ号に対する荷役が海上での生命、身体への危険を伴う作業であることを慮って、同日午前中は荷役作業を試みただけで中止せざるを得なかったものということができる。
そうすると、被告柳田らの前記行為は、その態様、行為の持つ意味に照らし、社会通念上相当なものとは認め難く、その正当性を肯定することはできない。
これに対し、同日午後については、前記のとおり、長川は、原告東海商船本社から荷役を行うよう指示を受け、午後二時ころ荷役を行う旨決定して、杉本を通じて被告柳田らにその旨通告したところ、被告柳田らはあくまでも荷役を行うというのならば行えばよいと述べて、ボートでバージニヤ号から離れた場所に移ったのであるから、長川としては、被告全日海の近畿地方支部組合員らによる妨害を受けることなく荷役を行うことができる状況にあり、以後実際に準備作業に着手させたが、被告全日海の近畿地方支部組合員らによる妨害が何ら行われなかったにもかかわらず、まだ荷役を行うことが可能であった時点で早々と荷役打ち切りを決定する等、本当に荷役を行う意思があったのか疑わしい事情すらうかがわれるのであって、そこに杉本の判断が介在したか否かはさておき、同日午後二時以降も準備作業を行ったにとどめ、結局荷役を行わなかったのは、被告全日海の行為に原因があるのではなく、長川自身の判断に基づくものなのではないかとの疑いを払拭することができない。
そうすると、近畿港運及び大阪港湾作業が原告東海商船に対して負っていたバージニヤ号に対する同日の荷役債務は、同日午前中の分については被告全日海の近畿地方支部組合員らの前記各行為のためにこれを履行することができなかったものということができるから、近畿港運又は大阪港湾作業の意思に基づかない事情によるものであることを肯定することができ、その責めに帰することのできない事由により履行できなかったものというべきである。そして、原告東海商船としては、近畿港運及び大阪港湾作業に契約どおり荷役を行わせるつもりであったが、被告全日海の近畿地方支部組合員らの前記各行為のため、同日午前中は近畿港運及び大阪港湾作業が作業を中止することを了承せざるを得なかったのであるから、近畿港運及び大阪港湾作業の右債務不履行が原告東海商船の意思又はその責めに帰することのできる事由に基づくものでないことも明らかである。
これに対し、同日午後二時以降近畿港運及び大阪港湾作業の荷役債務が行われなかったことが被告全日海の近畿地方支部地方支部長被告柳田らの責めに帰すべき事由によるものであることについては、甲第六号証及び第七号証の各記載並びに証人杉本幸夫及び長川久雄の各証言中にはこれに沿う部分があるものの、同日午後に艀からクレーンで鋼材を巻き上げる作業又はその準備作業が行われたことを撮影した写真や、被告全日海の近畿地方支部組合員らの乗ったボートが艀に接近して作業員を威嚇した等の写真が提出されないことを踏まえ、証人中西重吉の証言(一二〇項から一三二項まで、三三八項)、同池田秀男の証言(平成四年三月九日の証人調書一四九項から一六五項まで、平成四年四月六日の証人調書三九〇項から四〇四項まで)及び被告柳田栄本人尋問の結果(平成七年四月二〇日の本人調書一〇五項から一一九項まで)に照らすときは、甲第六号証及び第七号証の前記各記載部分並びに証人杉本幸夫及び長川久雄の前記各証言部分はたやすく採用することができず、他に同日午後二時以降近畿港運及び大阪港湾作業の荷役債務が行われなかったことが被告全日海の近畿地方支部地方支部長被告柳田らの責めに帰すべき事由によるものであることを認めるに足りる証拠はない。
5 被告らは、同日午前中の荷役に関し、杉本の依頼を受け、近畿港運が原告東海商船に対して荷役ができなかったことの口実とするために、荷役の対象の鋼材の上に被告全日海の近畿地方支部組合員の乗っている場面を作出し、杉本においてその場面を写真撮影することに協力したに過ぎないとし、これを理由に、被告全日海の近畿地方支部組合員には荷役妨害の意思はなかったと主張し、また、近畿港運及び大阪港湾作業は始めから荷役を行う意思がなかったものであるとし、これを理由に、被告全日海の近畿地方支部組合員による荷役妨害の事実もなかったと主張する。
被告柳田栄本人尋問の結果並びに証人池田秀男(平成四年一月二〇日の証人調書一三六項から一七二項まで、平成四年三月九日の証人調書一項から六三項まで、一〇七項から一一四項まで)及び同飛松三男の各証言中には被告らの右主張に沿う部分があり、それに符合するような外形的な事実も存しないわけではないことからすると、被告全日海の近畿地方支部組合員としてはそのように受け止めて行動したものであり、杉本の言動にもそのように受け止められてもやむを得ない面があったことは否定できないものの、証人杉本幸夫、同長川久雄及び同中西重吉の反対趣旨の各証言に照らすと、前記各証拠だけでは、杉本において被告全日海の近畿地方支部組合員にそのように働きかけ、杉本と被告全日海の近畿地方支部組合員が共謀の上で右のような虚偽の外形を作出したことを認めるに十分であるとはいえず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。
なお、被告らの右主張どおりとすれば、被告全日海近畿地方支部の組合員らは、近畿港運の杉本が、原告東海商船に対し、被告全日海近畿地方支部の組合員らの妨害行為により荷役を行うことができなかったと装うことを了承し、その証拠作りとしての写真撮影に協力したことになるが、そうだとすれば、被告柳田、池田執行部員をはじめとする被告全日海近畿地方支部の組合員ら(証人池田秀男の証言(平成四年一月二〇日の証人調書一四三項)どおりとすれば、被告柳田は当初杉本の話に激怒したものの、池田執行部員に説得されて証拠作りとしての写真撮影に協力することを了承したことになる。)としては、何故に杉本が原告東海商船に対してそのように装い、その証拠作りをしようとするのか、その証拠作りに協力することがどのような意昧を持つのかに疑問を抱いてしかるべきなのであり、仮に、被告柳田、池田執行部員をはじめとする被告全日海近畿地方支部の組合員らが、近畿港運において原告東海商船に対し請負代金、少なくとも大阪港湾作業の作業員らに支払う手間賃等の支払を請求する意思があり、そのために右のような証拠作りまで行っているとの可能性を認識していたのであれば、近畿港運の杉本が原告東海商船に対して請負代金騙取の欺罔行為を行うことについてそれを知りながらあえて加担したことになり、被告全日海としても、公序良俗に反するような強度の違法行為をあえて行ったことになってしまい、原告東海商船に対しそのような強度の違法行為を行ったが故に不法行為による損害賠償責任を負うことにならざるを得ないことに留意すべきである。
三 被告らの便宜置籍船対策活動の正当性について
原告東海商船と近畿港運との間に運航代理店関係及び荷役請負契約関係が存し、近畿港運と大阪港湾作業との間に荷役請負(下請)契約関係が存していたものであるから、近畿港運又は大阪港湾作業が請負契約に基づく荷役を行わない場合には、近畿港運の原告東海商船に対する債務不履行責任が問題となる。近畿港運又は大阪港湾作業が自らの意思でバージニヤ号に対する荷役を行わないのであれば、近畿港運の債務不履行責任に帰するし、原告東海商船がバージニヤ号に対する荷役が行われないことを了承するのであれば、原告東海商船自身の経済的不利益に帰するものであり、これらの場合に、被告全日海が原告東海商船に対して不法行為による損害賠償責任を負わないことはいうまでもない。これに対し、バージニヤ号に対する荷役ボイコットが近畿港運又は大阪港湾作業の意思に基づくものではなく、また、原告東海商船において荷役が行われないことを了承したのでなければ、近畿港運の原告東海商船に対する債務不履行についてその責めに帰する事由が何か、誰にその責任があるかが問題とならざるを得ない。
本件では、二で述べたように、被告全日海近畿地方支部の組合員は、艀内の鋼材にスリングワイヤーが掛けられ、これが荷役の対象とされており、かつ、その上に人が乗れば作業を続けることができなくなることを知りながら、あえてその鋼材上に乗っており、このような行為は、平和的な説得の範囲を既に逸脱しているものといわざるを得ないから、被告全日海近畿地方支部の組合員が鋼材上に乗る際に物理的有形力を行使しておらず、平穏に鋼材上に乗ったものであるとしても、その行為の違法性が否定されるものではないと解するのが相当である。右の行為その他の二で述べた事実関係を前提に考えると、昭和六二年一〇月三一日午前中の荷役債務については、被告柳田は故意により原告東海商船の近畿港運に対する債権を侵害したものというほかなく、その行為者として不法行為による損害賠償責任を免れず、また、被告全日海も、民法七一五条により、原告東海商船に対し損害賠償責任を免れないものというべきである。また、被告柳田は、原告タウラスの原告東海商船に対する右同日分の傭船料支払請求権を侵害し(甲第一号証によれば、原告タウラスと原告東海商船との間の定期傭船契約において、荷役が妨げられた場合には、原告タウラスは、荷役に必要であった時間についての傭船料の支払を受けられないことが定められていることが認められる。)、その他後記損害を与えたものであり、不法行為による損害賠償責任を免れず、被告全日海も、民法七一五条により、その責任を免れないものというべきである。
これに対し、同日午後二時以降の荷役債務については、被告らが原告東海商船の近畿港運に対する債権及び原告タウラスの原告東海商船に対する右債権を侵害等したものということはできず、被告らが原告東海商船及び原告タウラスに対し不法行為による損害賠償責任を負ういわれはない。
四 原告らの受けた損害について
1 原告東海商船の損害
(一) 昭和六二年一〇月三一日に待機させていた人員の報酬等相当額七七万三七七八円
甲第五号証、第九号証ないし第一四号証、証人堀端保の証言及び弁論の全趣旨によれば、原告東海商船は、昭和六二年一〇月三一日にバージニヤ号に対する荷役を行うために作業員その他の必要な人員を待機させ、フォークリフトを賃借しており、そのために次の各金員を支払ったことを認めることができ、この認定に反する証拠はない。前記のとおり、原告東海商船が同日午前中から午後二時までの間に荷役を行えなかったのは被告らの前記不法行為によるものであるから、右の間の報酬等相当額が被告らの前記不法行為と相当因果関係のある損害である。同日午後二時以降の分については、被告らの前記不法行為と相当因果関係がないから、右の分についての原告東海商船の損害賠償請求は理由がない。
(1) 船内荷役作業員二組二六名(一組一三名)分の報酬相当額四五万〇四〇九円
甲第九号証、第一二号証によれば、船内荷役作業員二組二六名(一組一三名)分の午前八時三〇分から午後四時三〇分までの間の報酬は合計六五万五一四〇円であることが認められ、これに、被告らの前記不法行為によりバージニヤ号に対する荷役を行えなかったと認められる時間が午前八時三〇分から午後二時までの五時間三〇分であることを併せて考えると、右六五万五一四〇円の一六分の一一に相当する額である四五万〇四〇九円(円未満四捨五入)をもって、被告らの前記不法行為と相当因果関係のある損害であると認める。
(2) 荷役作業監督者の待機料相当額一万九七五二円
甲第九号証、第一二号証によれば、荷役作業監督者の午前八時三〇分から午後四時三〇分までの間の待機料は二万八七三〇円であることが認められるから、(1)と同様の理由により、その一六分の一一に相当する額である一万九七五二円(円未満四捨五入)をもって、被告らの前記不法行為と相当因果関係のある損害であると認める。
(3) 船内作業用大工六名分の報酬相当額一〇万〇六九一円
甲第九号証、第一二号証によれば、船内作業用大工六名分の午前八時三〇分から午後四時三〇分までの間の報酬は合計一四万六四六〇円であることが認められるから、(1)と同様の理由により、その一六分の一一に相当する額である一〇万〇六九一円(円未満四捨五入)をもって、被告らの前記不法行為と相当因果関係のある損害であると認める。
(4) 船内作業用フォークリフト四台賃借料相当額九万七七四二円
甲第九号証、第一二号証によれば、船内作業用フォークリフト四台の午前八時三〇分から午後四時三〇分までの間の賃借料は合計一四万二一七〇円であることが認められるから、(1)と同様の理由により、その一六分の一一に相当する額である九万七七四二円(円未満四捨五入)をもって、被告らの前記不法行為と相当因果関係のある損害であると認める。
(5) 貨物検数員及び貨物積付計画図面作成員五名待機料相当額九万六七五〇円
甲第九号証、第一一号証によれば、貨物検数員及び貨物積付計画図面作成員五名待機料は七時間で算出すると合計一三万五四五〇円であることが認められるから、午前九時から午後四時までの七時間分のうち午前九時から午後二時までの五時間分に相当する分(一三万五四五〇円の七分の五相当額)である九万六七五〇円をもって、被告らの前記不法行為と相当因果関係のある損害であると認める。
(6) 貨物積込検査員一名待機料相当額八四三四円
甲第一三号証によれば、昭和六二年一〇月三一日及び同年一一月二日の二日分の基本報酬が二万四五三六円であることが認められる(証人堀端保の証言(平成四年一月二〇日の証人調書一一六項から一二六項)もこの認定に反するものではない。)から、その二分の一に相当する一万二二六八円のうち、(1)と同様の理由により、その一六分の一一に相当する額である八四三四円(円未満四捨五入)をもって被告らの前記不法行為と相当因果関係のある損害と認める。同年一一月二日の基本報酬分一万二二六八円に相当する損害賠償請求については、被告らの前記不法行為と相当因果関係のある損害と認めるに足りる証拠がないから、理由がない。
小計七七万三七七八円
(二) 昭和六二年一一月二日夜間に行った荷役の割増料金等相当額一二〇万〇一九六円
甲第九号証、第一二号証ないし第一四号証、証人堀端保の証言及び弁論の全趣旨によれば、原告東海商船は、昭和六二年一一月二日午後四時三〇分以降に、同年一〇月三一日に予定していた分のバージニヤ号に対する荷役を行い、作業員その他の必要な人員の労賃及びフォークリフトの賃料として次の各金員を支払ったことが認められ、この認定に反する証拠はない。
(1)、(4)、(5)及び(6)はいずれも五時間に相当する割増料金等であり、被告らの前記不法行為により荷役を行うことができなかった時間とほぼ符合するから、支払った各金員相当額全額をもって被告らの前記不法行為と相当因果関係のある損害と認める。また、(2)及び(3)については、弁論の全趣旨によれば、荷役を夜間に行わざるを得なかった以上、翌日午前四時三〇分までの割増料金を支払わざるを得なかったものと認められるから、支払った各金員相当額全額をもって被告らの前記不法行為と相当因果関係のある損害と認める。
(1) 船内荷役作業員の割増料金(同年一一月二日一六時三〇分から二一時三〇分まで)三二万四九一〇円(甲第九号証、第一二号証)
(2) 荷役作業監督者一名割増料金(同年一一月二日一六時三〇分から同年一一月三日午前四時三〇分まで)六万一四八〇円(甲第九号証、第一二号証)
(3) 船内作業大工一二名割増料金(同年一一月二日一六時三〇分から同年一一月三日午前四時三〇分まで)合計六二万七〇〇〇円(甲第九号証、第一二号証)
(4) フォークリフト四台分割増賃借料(同年一一月二日一六時三〇分から二一時三〇分まで)合計一四万七七〇〇円(甲第九号証、第一二号証)
(5) 検数員割増料金(同年一一月二日一六時三〇分から二一時三〇分まで)二万九一九六円(甲第九号証、第一四号証)
(6) 荷役作業検査員割増料金(同年一一月二日一六時三〇分から二一時三〇分まで)一万〇六七五円(甲第九号証、第一三号証)
小計一二〇万〇九六一円のうち一二〇万〇一九六円
一二〇万〇一九六円は、甲第九号証記載の金額であり、原告東海商船の請求額であるから、この限度で請求を認容する。
(三) 港費関係
原告東海商船は、(1) 曳舟二隻分割増料金合計九万二五二〇円、(2) 港内水先人割増料金三万七三一〇円、(3) 大阪湾水先人料八万円及び(4) 岸壁綱取扱料割増料金三万一五七五円、以上合計金二四万一四〇五円の損害を被ったとしてその賠償を請求しており、甲第九号証の記載中にはこの主張に沿い、(1)につき曳舟二隻分の料金の六〇パーセントを算出し、(2)につき港内水先人の料金の五〇パーセントを算出し、(4)につき岸壁綱取扱料の七五パーセントを算出している部分があり、これらについては各割増料金から通常の料金を控除した分を算出していることがうかがわれるが、なぜ割増料金が必要となったのかについて明確な説明がなく、甲第九号証だけでは、被告らの前記不法行為との相当因果関係のある損害が発生したことを認めるに足りない。また、(3)については甲第九号証の記載中においてすら割増料金分が含まれていることを示す部分がない。さらに、証人堀端保の証言中には甲第九号証の成立に関する部分はある(平成三年九月二四日の証人調書四六項から四九項まで)が、右の点の説明等は何もない。
他方、証人堀端保の証言(平成三年九月二四日の証人調書四六項から四八項まで、五四項から五七項まで)によれば、甲第九号証の(1)から(4)までの記載が甲第一二号証の記載を根拠としていることが認められるが、甲第一二号証には、水先料一一万七三一〇円((2)及び(3)の合計金額に相当する。)、曳舟料九万二五二〇円((1)に相当する。)、繋船索取扱料三万一五七五円、以上港費合計金二四万一四〇五円の記載はあるものの、これらに割増料金分が含まれていることを示す部分がなく、被告らの前記不法行為との相当因果関係のある損害が発生したことを認めるに足りない。
結局、原告東海商船の主張する港費関係の損害については、被告らの前記不法行為との相当因果関係のある損害が発生したことを認めるに足りる証拠はなく、原告東海商船の港費関係の損害賠償請求は理由がない。
(四) 以上のとおり、原告東海商船の損害賠償請求は、(一)及び(二)の合計一九七万三九七四円の限度で理由があり、その余は理由がない。
2 原告タウラスの損害
(一) バージニヤ号の傭船料等相当額一一万八八四三円
甲第一号証、第八号証ないし第一〇号証、証人堀端保の証言によれば、バージニヤ号の昭和六二年一〇月三一日午前八時三〇分から午後四時三〇分までの間の傭船料、燃料油及び機械油は、合計米貨一二三二ドル五三セントであり、これを円に換算すると一七万二八六二円(昭和六二年一〇月三〇日当時、一ドル当たり一四〇円二五銭)であることが認められ、この認定に反する証拠はない。1で述べたと同様の理由により、その一六分の一一に相当する額である一一万八八四三円(円未満四捨五入)をもって被告らの前記不法行為と相当因果関係のある損害と認める。
(二) 船舶不稼働期間中の飲料水代八五五九円
甲第八号証ないし第一〇号証、証人堀端保の証言によれば、バージニヤ号の昭和六二年一〇月三一日午前八時三〇分から午後四時三〇分までの間の飲料水代は、一万二四五〇円であることが認められ、この認定に反する証拠はない。1で述べたと同様の理由により、その一六分の一一に相当する額である八五五九円(円未満四捨五入)をもって被告らの前記不法行為と相当因果関係のある損害と認める。
(三) 船舶不稼動期間中の岸壁使用料二万三二〇三円
甲第九号証、第一〇号証、証人堀端保の証言によれば、バージニヤ号の昭和六二年一〇月三一日の岸壁使用料は、三万三七五〇円であることが認められ、この認定に反する証拠はない。バージニヤ号の荷役のために一日分の岸壁使用料を必要とするものと解されることを考慮すると、その一六分の一一に相当する額である二万三二〇三円(円未満四捨五入)をもって被告らの前記不法行為と相当因果関係のある損害と認める。
(四) 以上のとおり、原告タウラスの損害賠償請求は、(一)ないし(三)の合計一五万〇六〇五円の限度で理由があり、その余は理由がない。
第五 乙事件についての判断
一 第四(甲事件についての判断)、一と同様、乙事件についても、被告全日海組合員らがジャパン号及びパシフィック号に対して行った便宜置籍船対策活動について、特に具体的な行為の態様からその正当性が問題となる。
二 被告全日海によるジャパン号に対する荷役の妨害の有無(不法行為の成否)について
1 被告全日海によるジャパン号に対する荷役ボイコットの抗議行動の決定と実施のための働きかけ等について
証拠によれば以下の事実が認められる(証拠を各項の末尾に掲げる。)。
(一) 大阪港湾労働組合協議会は、大阪港運協会に対し、昭和六三年二月一七日付け「東海商船株式会社等のFOC行動損害賠償請求訴状に関する申入書」と題する書面(乙第一八号証)を送付し、原告東海商船が提起した本件訴訟(甲事件)に関して次のとおり申し入れた。すなわち、大阪港湾労働組合協議会と被告全日海近畿地方支部とが共通する労働課題については協力共闘する組織関係にあり、大阪港における便宜置籍船対策キャンペーンについて要求を一致させて既に行動を重ねてきており、バージニヤ号に対するキャンペーンについても、大阪港湾労働組合協議会から大阪港運協会に対し、右キャンペーンを行うことを通告し、大阪港運協会から、原告東海商船の運航代理店である近畿港運、大阪港湾作業に対し、港湾労使の秩序によって被告全日海近畿地方支部の行動に不当に介入せず、無用なトラブルや不測の事態を引き起こさないよう通知することを要請した。大阪港運協会は近畿港運にその旨を伝え、近畿港運は「FOCは理解しており強行荷役は行わない」と返答したとのことであり、大阪港湾作業の中西は、「オーダーが出た場合は乗船する。乗船するがトラブルは起こさない。」等を確約したとのことであった。ところが、原告東海商船の訴状によると、最初から便宜置籍船対策行動を敵視し、大阪港運協会や大阪港湾労働組合協議会を欺いて強行荷役を行う意図であったことを明らかにしている。この件で特に許し難いのは、中西の一連の言動であり、中西は、「会社の命令だ、全責任は俺がとる、やれ」と恫喝した上で、荷役を行わなければ解雇することを示唆し、組合員はやむを得ず従ったとのことである。「本件に関して貴協会に厳重に抗議を申し入れるのは、港湾労働を魅力あるものにするための重大な責任を負う貴協会加盟各社が、これまで長年にわたって築き上げてきた正常な労使関係を一船社の走狗となって崩壊させたことです。中西重吉取締役船内部長は前近代的な恫喝をもって全日本海員組合のFOC行動に当協議会傘下組合を介入させ、労働者間のトラブルを教唆し、『従わなければ首にする』的な不当な暴言で組合員を威圧したことは職権の範囲を越えるものであり、労働組合に対する敵視、挑戦であるとともに労働者の尊厳を土足で踏みにじる暴挙であります。当協議会は、中西重吉取締役船内部長は勿論、このような暴挙を容認した近畿港運の態度を厳しく糾弾してゆくものです。近畿港運及び大阪港湾作業中西重吉取締役船内部長の時代錯誤的な暴挙の責任の一端は貴協会にもあります。今後、正常な労使関係を維持してゆく上で、かかる会員会社の前近代的な態度が続く限り、港湾労働問題の前進的な解決はあり得ず、労使紛争を激化させることになることは明らかです。貴協会から本件をあいまいに片付けることなく事実関係を明らかにして一切の不祥事の責任を取り、反労働行為の反省について納得できる措置を取ることを申し入れます。」、以上のように申し入れ、九項目にわたって質問事項を掲記し、団体交渉までに書面で回答するよう求めた。
(乙第一八号証)
(二) 被告全日海の大阪支部支部長である被告藤川は、昭和六三年三月三日、大阪港湾労働組合協議会及び全日本港湾運輸労働組合同盟に対し、「第16次FOCキャンペーンにおける荷役ボイコット対象船について」と題する書面(甲第五七号証、乙第二二号証)を送付して同月四日にジャパン号の荷役ボイコットを決定したことを通知し、協力を要請した。大阪港湾労働組合協議会は、右通知を受け、同月三日、大阪港運協会に対し、「第16次FOCキャンペーンの対象船について」と題する書面(乙第一四号証)を送付してジャパン号の荷役ボイコットを通告した。この書面には、「全日本海員組合大阪支部より三月二日の査察の結果、下記船舶(ジャパン号)のボイコットを決定したとの連絡があり、当協議会としてもこの行動に協力共闘することを確認しました。従いまして、貴協会において不測の事態が起こらないよう関係店社に周知徹底されたくお願い申し上げます。尚、東海商船は前例もあり万全の策をはかられたい。」と記載されていた。
(甲第二四号証、第五七号証、乙第一四号証、第二二号証、証人杉本幸夫の証言(平成元年九月八日付け証人調書一四三項から一四五項まで、平成二年六月八日付け証人調書七二項。)、証人池田秀男の証言(平成四年三月九日付け証人調書一八二項から一九三項まで。)、証人黄金一臣の証言(平成五年三月九日付け証人調書八九項から一〇七項まで、一五八項から一六七項まで。))
(三) 右(一)及び(二)に、証人池田秀男及び同黄金一臣の各証言並びに弁論の全趣旨を併せて考えると、大阪港湾労働組合協議会が、便宜置籍船対策キャンペーンに対する対応として、組合員である作業員には待機することを徹底させるとともに、使用者側には荷役を行う業務命令を出せば大阪港湾労働組合協議会と大阪港運協会との間の労使紛争が悪化することを示唆して、荷役を行う業務命令を出さないよう強く求めたことを認めることができる。
(四) 杉本は、昭和六三年三月三日、大阪港運協会を通じて、被告全日海及び大阪港湾労働組合協議会からのジャパン号の荷役ボイコットに関する前記通告を受けた。杉本は、大阪港運協会に赴き、原告東海商船は右荷役ボイコットを合法的活動ではないと判断していること、原告東海商船と被告全日海間には訴訟(注。甲事件のことを指す。)が提起されている事情を説明し、原告東海商船からも通常どおりの荷役を要請されているので、近畿港運は、港湾運送事業法一五条、一七条(現行法の一七条の二)により荷役を手配し、同月四日は、特に問題がない限り荷役を行うこと、ただし、港湾労組とのトラブルを避けるため、最善の努力はするので、大阪港運協会から大阪港湾労働組合協議会に十分事情を説明し荷役が可能であるよう配慮して欲しい旨述べた。大阪港運協会は、「FOC対策活動の是非については判断する立場にないので対応が難しい。本件は基本的には船主と被告全日海との間の問題であり、両者間で問題が解決されれば良いが、双方の事情が港湾でぶつかる形になっており、根本的解決には時日を要する。大阪港運協会が結論を出せる立場にない。ただ、大阪港運協会が得ている情報によれば、大阪港湾労働組合協議会は昨年(昭和六二年)一〇月のバージニヤ号における事件の際の近畿港運及び大阪港湾作業の採った措置に対し態度を硬化させており、今回は被告全日海のFOC対策活動を支援するのではなくそれに協力共闘するとの申入れがあり、右事件の時より厳しい状況であると予想される。大阪港運協会として具体的指示をする立場にないので船主の原告東海商船とよく相談して、近畿港運の自主的判断で不測のトラブルを起こさぬようにして欲しい。」と述べた。
(甲第二四号証、第五七号証、乙第一四号証、第二二号証、証人杉本幸夫の証言(平成元年九月八日付け証人調書一四三項から一四五項まで、平成二年六月八日付け証人調書七二項。))
2 昭和六三年三月四日における被告全日海大阪支部組合員らの行動等について
(一) 被告藤川及び被告全日海大阪支部組合員の池田ら約一三、四名は、昭和六三年三月四日午前七時三〇分ころ、マイクロバス及び車三台に乗ってジャパン号舷門付近に到着し、ジャパン号舷梯(タラップ)前に、台を七個置き、その上に被告全日海の旗を七本立て、「便宜置籍船反対運動」等と記載された横断幕を一枚張った。
(甲第二〇号証の一ないし三、第二一号証の二、第五一号証、証人杉本幸夫の証言(平成元年九月八日付け証人調書一四六項から一五七項まで、一六五項、一六六項。)、証人池田秀男の証言(平成四年三月九日付け証人調書一九四項から二〇〇項まで、平成四年四月六日付け証人調書四二九項から四四七項まで。)
(二) ジャパン号の荷役を行う要員である大阪港湾作業の作業員一五名、大工六名等は、午前八時一〇分ころ、バスでジャパン号に到着した。作業員等は、バス内で待機していた。杉本は、1で述べたように、大阪港湾労働組合協議会が、被告全日海と共闘するに至っており、便宜置籍船対策キャンペーンに対する対応として、組合員である作業員には待機を徹底させるとともに、使用者側には荷役を行う業務命令を出せば大阪港湾労働組合協議会と大阪港運協会との間の労使紛争が悪化することを示唆して、荷役を行う業務命令を出さないよう強く求めてきていたことから、被告全日海組合員が前記のとおり旗を立て、ピケを張っている状況の中で、被告全日海と話合いのつかないまま作業員等をジャパン号に乗船させようとすれば、混乱が生じ、大阪港湾労働組合協議会と大阪港運協会との間の労使紛争が悪化する等の重大な事態が生じるおそれがあると判断し、作業員等はそのままバスの中で待機させておくこととし、ジャパン号から下船してバスまで行き、リーダーの村上に対し、そのままバスの中で待機しているよう指示した。
(証人杉本幸夫の証言(平成元年九月八日付け証人調書一五八項から一八一項まで、二〇〇項から二〇三項まで、平成二年六月八日付け証人調書一項から四一項まで、一一五項から一二七項まで、一五〇項から一六六項まで。)、証人池田秀男の証言(平成四年三月九日付け証人調書二〇三項から二二一項まで、平成四年四月六日付け証人調書四八六項から四八九項まで。))
(三) 日下、長川、杉本、被告藤川及び池田は、午前八時一五分ころ、船内で話し合った。日下は、ピケを解いて荷役をさせるよう、ボイコットの解除を申し入れた。他方、被告藤川らは、便宜置籍船対策キャンペーンの正当性を主張し、原告東海商船が青色証明書の取得及び日本人船員の乗船の交渉に応じるよう求めた。日下は、原告東海商船本社に電話で再確認したが、本社の折本及び堀端は青色証明書を取得する意思はないとして、作業員を乗船させるよう指示した。被告藤川及び池田は、そういうことではピケを解けないとし、話し合いはまとまらなかった。
(甲第二四号証、証人杉本幸夫の証言(平成元年九月八日付け証人調書一八二項から一八八項まで、平成二年六月八日付け証人調書一〇〇項から一〇九項まで)、証人池田秀男の証言(平成四年三月九日付け証人調書二二二項から二三一項まで。))
(四) 杉本は、午前九時一五分、日下から荷役開始を要請されたが、今回は大阪港湾労働組合協議会が被告全日海に共闘しているので、荷役を開始すれば、大阪港湾労働組合協議会と大阪港運協会との間の労使関係が悪化することを憂慮し、大阪港湾労働組合協議会にこの点を再確認し、近畿港運本社及び関係先に相談する必要があると判断し、日下に対し時間の猶予を求め、その了解を得た。
杉本は、午前九時三〇分、被告全日海に対し、ボイコットを船内荷役のみに限定し、沿岸での荷役作業は行わせてくれるよう申し入れた。
近畿港運社長の宮崎は、午前一〇時一五分ころ、大阪港運協会を訪れ、労務担当幹部に現場の事情を説明すると共に、大阪港湾労働組合協議会の幹部と面談の上事態を打開したいので、連絡を取ってくれるよう依頼し、大阪港湾作業社長の広田と共に、大阪港湾労働組合協議会の事務所を尋ね、事務局長の黄金と会談し、原告東海商船及び近畿港運の考え方を説明した上で、神戸と同様に大阪でも沿岸作業を行わせてくれるよう求めた。これに対し、黄金は、大阪港湾労働組合協議会の被告全日海との協力共闘が機関決定に基づくものなので、荷役が強行されれば組合としてそれなりの対応をすることになるが、沿岸作業については神戸港のこともあり実施できるよう現場で被告全日海と打ち合せる等と述べた。黄金は、ジャパン号のピケの現場まで行き、池田らに、沿岸作業をしたい旨の申入れに応じてほしいと依頼したところ、池田らはこれを了承した。
近畿港運は、午後一時四五分ころ、以上の状況を踏まえ、荷役を行わず、沿岸作業だけを実施することを決定し、日下に右の点を説明し、原告東海商船本社にも事情を理解してもらうよう求めた。
日下、杉本、黄金及び池田は、午後二時、沿岸作業をすることについて打ち合わせた。午後二時三〇分には、沿岸で重機等トラックが降ろされ、ラッシング資材の整備が開始された。
杉本は、午後四時ころ、神戸港のパシフィック号でボイコットが解除されたとの情報を受け、被告全日海及び大阪港湾労働組合協議会に確認を申し入れた。他方、原告東海商船本社、現場及び日下らは夜間の荷役を検討したが、C―6岸壁上には照明設備がなく特に重機等の荷役は危険で不可能であるため、被告全日海のボイコットとは無関係に夜間の荷役は行わないと決定した。結局荷役作業は行われず、作業員はバスで帰社した。
(証人杉本幸夫の証言(平成二年六月八日付け証人調書四五項から九九項まで、一一〇項から一一四項まで、一四五項から一四九項まで。)、証人池田秀男の証言(平成四年三月九日付け証人調書二三二項から二四六項まで。)、証人黄金一臣の証言(平成五年三月九日付け証人調書一六八項から一八七項まで。))
3(一) 前記認定事実によれば、甲事件の提訴後、大阪港湾労働組合協議会が、被告全日海と共闘する路線を打ち出し、便宜置籍船対策キャンペーンに対する対応として、組合員である作業員には待機を徹底させるとともに、使用者側には荷役を行う業務命令を出せば大阪港湾労働組合協議会と大阪港運協会との間の労使紛争が悪化することを示唆して、荷役を行う業務命令を出さないよう強く求めてきていたことから、杉本は、被告全日海組合員が前記のとおり旗を立て、ピケを張っている状況の中で、被告全日海と話合いのつかないまま作業員等をジャパン号に乗船させようとすれば、混乱が生じ、大阪港湾労働組合協議会と大阪港運協会との間の労使紛争が悪化する等の重大な事態が生じるおそれがあると判断し、作業員等はそのままバスの中で待機させ、その後時間をかけて被告全日海、大阪港湾労働組合協議会との交渉により打開しようとしたが、杉本自ら、あるいは近畿港運社長の宮崎の努力も実らず、被告全日海は荷役の実施を了承せず、ピケを解かなかったため、結局、被告全日海の了承を得て沿岸作業を実施するにとどめ、荷役の当日の実施は断念せざるを得なかったものである。
なお、乙第一三号証の一、同号証の二及び甲第五八号証によれば、大阪港湾労働組合協議会と大阪港運協会とは、昭和六三年四月八日に団体交渉を行い、大阪港湾労働組合協議会は、その中で、「東海商船は、港湾運送事業法…(中略)…で元請に強硬な態度を取り、大港労協に海員組合のスト破りを強要している。この東海商船の態度は、これまでの港湾の労使関係に船社が直接手を出してきたものだ。船社のオーダーがあれば港運業者はスト破りでもやるとの意向か。」と述べ、大阪港運協会は、「協会としては、船社のオーダーがあれば業務移行のための手配を行う。しかし、この業務遂行にあたって、我々は法治国家のもとに営んでおり、また文化人であることから、ピケが行われていれば、当然強行してトラブルを起こすようなことは行わない。」等の回答をしたこと、また、被告全日海の関西地方支部、大阪支部、神戸港湾、大阪港湾労働組合協議会等が昭和六三年四月六日に便宜置籍船対策会議を開き、同月一三日から一五日まで予定されてる便宜置籍船対策キャンペーンに関し、ボイコット要領を定め、ボイコット対象船には原則として舷梯前でピケッティングを行うことを確認したこと、以上の事実が認められる。
(二) 右事実に弁論の全趣旨を併せて考えると、被告全日海は、原告東海商船による甲事件の提訴に反発し、大阪港湾労働組合協議会に共闘を呼びかけ、大阪港湾労働組合協議会が、これを受けて、便宜置籍船対策キャンペーンに対する対応として、組合員である作業員には待機を徹底させるとともに、使用者側には荷役を行う業務命令を出せば大阪港湾労働組合協議会と大阪港運協会との間の労使紛争が悪化することを示唆して、荷役を行う業務命令を出さないよう強く求めていたのであって、被告全日海は、近畿港運が、原告東海商船の指示どおりに荷役を実施すれば、大阪港湾労働組合協議会と大阪港運協会との間の労使紛争が悪化する等の重大な事態が生じるおそれがあることを憂慮しており、被告全日海において便宜置籍船対策キャンペーンとしてピケを張り、荷役ボイコットの姿勢を貫けば、近畿港運が荷役を実施することが著しく困難であることを認識しながら、ジャパン号舷梯(タラップ)前に被告全日海の旗を七本立て、横断幕を一枚張る等してピケを張り、その後の交渉でも遂に荷役の実施を了承せず、ピケを解かなかったものであるから、大阪港湾労働組合協議会と意を通じ、その行為によって作り出された状況を利用し、自らの行為によって近畿港運の自由意思を阻害して荷役の実施を妨げたものであり、被告全日海の右行為は、平和的説得の範囲を超える態様、方法による荷役妨害であって、社会通念上相当なものとは認めがたいといわざるを得ない。
(三) 被告らは、原告らが主張するように、ジャパン号の舷門付近の岸壁上に組立式鉄パイプで同舷門の周囲を閉鎖したり、岸壁と同船との交通を遮断したり、組合員数名を監視に立たせたりして、実力を持って船内荷役作業員らの乗船を妨害した事実は存しないと主張し、不法行為責任を負ういわれはないとしてこれを争う。
たしかに、原告らの妨害行為についての主張は、被告らの行為の態様につき事実に基づかない主張をしている部分があり、表現においても不適切な面があることは否定できないが、原告らの妨害行為についての主張の核心は、被告全日海大阪支部が、近畿港運に対し、あらかじめ荷役ボイコットを行う旨通告した上で、荷役ボイコットの手段として、ジャパン号舷梯(タラップ)前に被告全日海の旗を七本立て、横断幕を一枚張る等してピケを張ったことが、近畿港運をして荷役を行うことを妨害するような違法なものであったという点にあると解するのが相当であるから、ジャパン号の舷門付近の岸壁上に組立式鉄パイプで同舷門の周囲を閉鎖したり、岸壁と同船との交通を遮断したりした事実がなかったというだけでは、被告全日海の右行為の違法性を否定する根拠とはならず、被告全日海の右行為に関する諸般の事情を総合考慮して違法性の有無を個別具体的に判断すべきである。
(四) そうすると、近畿港運が原告東海商船に対して負っていたジャパン号に対する同日の荷役債務は、被告全日海の大阪支部組合員らの前記各行為のために近畿港運の自由意思が阻害され、それ故にこれを履行することができなかったものということができるから、近畿港運の意思に基づかない事情によるものであることを肯定することができ、その責めに帰することのできない事由により履行できなかったものというべきである。そして、原告東海商船としては、近畿港運に契約どおり荷役を行わせるつもりであったが、被告全日海の大阪支部組合員らの前記各行為のため、近畿港運が荷役作業を実施しないことを了承せざるを得なかったのであるから、近畿港運の右債務不履行が原告東海商船の意思又はその責めに帰することのできる事由に基づくものでないことも明らかである。
近畿港運は原告東海商船に対し、荷役請負契約に基づく荷役債務を負っていたところ、被告藤川は故意により原告東海商船の近畿港運に対する債権を侵害したものというほかなく、その行為者として不法行為による損害賠償責任を免れず、また、被告全日海も、民法七一五条により、原告東海商船に対し損害賠償責任を免れないものというべきである。
また、被告藤川は、原告ボランスの原告東海商船に対する昭和六三年三月四日分の傭船料支払請求権を侵害し(甲第二三号証によれば、原告ボランスと原告東海商船との間の定期傭船契約において、荷役が妨げられた場合には、原告ボランスは、荷役に必要であった時間についての傭船料の支払を受けられないことが定められていることが認められる。)、その他後記損害を与えたものであり、不法行為による損害賠償責任を免れず、被告全日海も、民法七一五条により、その責任を免れないものというべきである。
4 原告らの損害
(一) 原告東海商船の損害
(1) 昭和六三年三月四日に待機させていた人員の報酬相当額
甲第三一号証ないし第三三号証、第五三号証、証人堀端保の証言及び弁論の全趣旨によれば、原告東海商船は、昭和六三年三月四日、ジャパン号に対する荷役を行うために、午前八時三〇分から午後四時三〇分まで作業員その他の必要な人員を待機させ、フォークリフトを賃借しており、そのために次の各金員を支払い、同額の損害を受けたことを認めることができ、この認定に反する証拠はない。
ア 船内荷役作業員一組分の報酬三二万七五七〇円
イ 荷役監督一名分の待機料二万八七三〇円
ウ 船内荷役に従事する大工六名分の報酬一四万六四六〇円
エ フォークリフト六トン一台分賃料四万九〇〇〇円
オ 検数員及び艙内荷役確認員四名分待機料一〇万八三六〇円
カ 荷役検査員一名分待機料一万二二六八円
小計六七万二三八八円
(2) 夜間荷役作業割増料金(三月五日午後四時三〇分から同月六日午前二時。)
甲第五三号証、証人堀端保の証言及び弁論の全趣旨によれば、原告東海商船は、昭和六三年三月五日午後四時三〇分から同月六日午前二時まで、同月四日に予定していた分のジャパン号に対する荷役を行い、作業員その他の必要な人員の労賃及びフォークリフトの賃料として次の各金員を支払い、同額の損害を受けたことが認められ、この認定に反する証拠はない。
ア 荷役監督一名割増料金六万一四八〇円
イ 船内荷役に従事する大工三三名分割増料金一七二万四二五〇円
ウ 荷役検査員一名割増料金一万九四二九円
小計一八〇万五一五九円
(3) (1)及び(2)の合計二四七万七五四七円
(二) 原告ボランスの損害
甲第二九号証、第三〇号証、第五三号証、証人堀端保の証言及び弁論の全趣旨によれば、原告ボランスは、被告らの前記不法行為により、昭和六三年三月四日午前七時三〇分から午後四時二〇分までの八時間五〇分間、ジャパン号の使用が不可能となったため、原告東海商船からオフ・ハイヤー(不稼働)として傭船料の支払を拒否されたこと、また、原告ボランスは、同船の機関をいつでも稼働可能なように維持するため燃料油を消費したこと、右傭船料及び燃料油は、合計米貨一五四一ドル七六セントであり、これを円に換算すると二〇万〇八九一円(昭和六三年三月四日当時、一ドル当たり一三〇円三〇銭)であること、以上の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。よって、原告ボランスは、被告らの前記不法行為により、右同額の損害を受けたものというべきである。
(1) オフ・ハイヤーによる傭船料相当損害金米貨1459.78ドル
(2) 燃料代相当損害金米貨81.98ドル
以上合計1541.76ドル
邦貨換算二〇万〇八九一円(一ドル130.30円で換算)
すなわち、右1541.76ドルに130.30円を乗じると、20万0891.328円となり、原告ボランスの損害は二〇万〇八九一円の限度で認められる。
(三) 以上のとおり、原告タウラスの損害賠償請求は、(一)及び(二)の合計二〇万〇八九一円の限度で理由があり、その余は理由がない。
三 被告全日海によるパシフィック号に対する荷役の妨害行為の有無(不法行為の成否)について
1 事実の経緯
証拠によれば以下の事実が認められる(証拠によって認められる事実を含む項については、証拠を各項の末尾に掲げる。)。
(一) 神戸港では、被告全日海神戸地方支部(昭和六三年三月一日以降は関西地方支部)、神戸港湾労働組合連合会及び全日本港湾運輸同盟労働組合同盟兵庫地方本部によって神戸地区(神戸港)FOC対策会議が結成されていた。神戸地区FOC対策会議、神戸港湾労働組合協議会及び港運同盟神戸地本は、昭和六三年二月二三日、神戸船内荷役協会及び神戸港沿岸荷役業会に対し、「御通知」と題する書面で、同月二九日から同年三月五日まで神戸港において便宜置籍船対策活動を行うこととなった旨連絡した。同書面には、「1 対策活動の基本」として「ITFと労働協約を締結していないFOC…、また締結しているにもかかわらずその契約が誠実に履行されていないことが判明したFOCに対し、ITFによる船内荷役ボイコットをもって抗議する。」と記載され、「ボイコット対象船には原則として舷艇前でピケッティングを行う。」と記載されていた。
パシフィック号は、同年三月三日、アメリカ向けの建設用機械と鋼材を積み込むため、神戸港六甲アイランドKL岸壁に入港接岸した。荷役は同日から開始された。
被告全日海神戸地方支部は、神戸港湾労働組合協議会議長で神戸港湾労働組合連合会執行委員長であった増井に対し、パシフィック号が便宜置籍船キャンペーンの対象船になる旨連絡した。増井は、同連絡を、上津港運及びその労働組合に伝えた。また、被告全日海神戸地方支部は、上組副支店長重久に対し、同年三月四日、パシフィック号において、便宜置籍船キャンペーンとして荷役ボイコットをする旨連絡した。上組港湾事業部長代理久保は重久からその旨聞いた。上組は、神戸港沿岸荷役業会及び神戸船内荷役協会に加盟していた。上組船内労働組合及び上津港運労働組合は、神戸港労働組合連合会及びその上部団体である神戸港湾労働組合協議会に加盟していた。
なお同年四月六日に大阪港湾労働センターで行われた「関西FOC対策会議」での報告では東海商船に対する闘争宣言について議論され、同会議での報告のため作成された書面には「第17次FOC対策キャンペーン大阪港実施要領」として、「ボイコット要領」及び「ピケット要領」が記載されていた。
(乙第一〇号証の一及び二、第二四、第四二号証、証人久保昌三、同川田昇及び同増井正行の各証言、被告井上晴夫本人尋問の結果第二七回口頭弁論調書八三項以下)
(二) 上津港運の荷役作業員二ギャング計三二名その他溶接工及び大工らは、昭和六三年三月四日午前七時前には、荷役作業の段取りのためパシフィック号に乗船していた。これら作業員は、前日終夜で作業を行った者とは異なるグループの者であった。(証人山本英樹の証言第二九回口頭弁論調書一五項)。
久保及び上組神戸支店港湾事業部海務課長で荷役責任者であった川田は、午前七時一〇分ころ、原告東海商船の荷役確認のため、パシフィック号が接岸していた右岸壁に到着し、既に乗船していた山本英樹と会った。上組の海務監督二名は既に乗船した。
被告全日海組合員七名は午前七時三〇分ころ到着し、午前七時三五分には更に八名が到着し、タラップの下で国際運輸労連及び被告全日海の文字が書かれた旗を立てたり横断幕を広げたりした。
被告全日海関西地方支部副支部長井上は、午前七時四〇分、久保に対し、パシフィック号に既に二ギャング乗船している理由を質問した。これに対し、久保は「当社としては、出帆を急いでいる場合には、時として得意先よりこのような形でのオーダーはあり得るので全く特別の処置ではない。」と説明した。
上組は、午前七時五〇分、被告全日海に対して、パシフィック号の荷役につき、ラッシングの資材等を同船に積み卸しするのも阻止するのか、大工は非組合員であるがそれが作業を行っても阻止するのか質問した。被告井上らは、いずれも一連の荷役行為に当たるので作業は中止して欲しいと回答した。
他方、右二ギャングのうち、一ギャングは第二船艙にて資材を、他の一ギャングは第四船艙にて貨物のエキスカベーター(ブルドーザー)を積載するため準備を開始した。被告全日海は、これを阻止するために、第二船艙に七名、第四船艙に八名の組合員を配置した。
午前八時三〇分、荷役作業が開始された。
作業員は、午前八時三二分ころ、積込用資材(ダンネージ)を二番船艙内に積み込むため巻き上げようとしたところ、被告全日海組合員はワイヤースイングに手をかけ、右巻上げを阻止した。
作業員は、午前八時三六分、第四船艙下の岸壁上で、エキスカベーターのキャタピラーの下にワイヤースリングを掛けた。川田が荷役開始の合図をし、パシフィック号のギアを用いて巻上げが開始された。午前八時三八分ころ、エキスカベーターが地上約五〇センチメートル程上がり、ブレがないか等確認するため巻上げが一旦停止された際、被告井上ら被告全日海組合員数名がエキスカベーターの近くまで寄って来て、被告井上及び藤井がその上に手と足を掛け、その状態が数分間続いた。被告全日海は、更にこのまま作業を強行すれば、今夜及び明日もピケを張る意思があることを表明した。久保及び川田は、山本英樹に対し、以上を報告し、その了解を得てやむを得ず作業を中止した。
井上、増井、山本英樹、久保及び川田らは、午前八時四〇分、話合いを始め、午前八時五〇分ころには、パシフィック号内のサロンに場所を変えた。
被告井上らは、その後、右サロン内で、山本英樹に対し、「青色証明書取得の協議に応じること、日本人船員を配乗させること及び昨年の大阪でのピケに関する訴訟を取り下げ、話合いの場を設けること」等を求め、それに応じれば現在行っている行為の解除もあり得ると述べた。山本英樹は、途中で、原告東海商船東京本社の堀端と連絡を取り、状況を説明し相談した。しかし、堀端は、右要求はいずれも受け入れられないと回答した。山本英樹は、部屋に戻ったが、井上らは既におらず、その場にいた久保らに右の回答を伝え、荷役を続行して欲しいと述べた。しかし、荷役ボイコットは継続された。
被告全日海は、午前一〇時三〇分、上組に対し、本日のキャンペーンは午後四時まで続行し、それ以降は打ち切ることを決定した旨連絡した。荷役作業員及び大工らはそのまま午後四時までパシフィック号上で待機していた。
午後四時、キャンペーンが終了し、上組は直ちに荷役作業を開始した。
(甲第二一号証の一、第二一号証の三ないし八、第三六、第四二、第五二、第五八号証、乙第四〇号証、証人久保昌三、同川田昇及び同山本英樹の各証言)
2 被告らの主張について
(一) ダンネージの巻上げ作業について
被告らは、昭和六三年三月四日午前八時三〇分ころ、パシフィック号の第二船艙でダンネージの巻上げ作業は開始されなかったと主張し、被告井上は、右主張に沿う供述をしている(平成六年二月七日付調書三一一項)。しかしながら、甲第五二号証のビデオによれば、被告全日海組合員がダンネージにさわる前に、作業員がダンネージを巻き上げるため、スプレッダにワイヤーを取り付ける準備をする場面が映っていることが認められ、また、ダンネージが当日、最終的に積み込まれていることは被告井上晴夫本人尋問の結果及び証人増井正行の証言によっても認めることができ、これらに弁論の全趣旨を併せて考えると、ダンネージの巻上げは、被告全日海組合員らが意図的にこれを阻止したものであり、その後巻上げ可能な状況になってからパシフィック号内に積み込まれたものと考えるのが自然であって、被告井上晴夫本人の前記供述部分はこれを採用することができない。他に被告らの右主張を認めるに足りる証拠はない。
(二) エキスカベーターの巻上げ作業について
被告らは、パシフィック号の第四船艙でのエキスカベーターの巻上げの中止は、被告全日海が、荷役作業に取りかかったという外観を作らせて欲しいという荷役作業者側からの申入れを了承したことによるものであったと主張する。
被告井上は、船上で上津港運に荷役を行わないよう協力を求めたところ、その作業責任者から格好をつけることで了承してくれと言われ、更にその後、川田から、より具体的に、エキスカベーターにスリングワイヤーを掛ける作業をする直前に、三〇センチメートル位上げる程度の荷役の格好をさせてくれと申し入れられ、その旨了承したと供述している(平成五年八月二四日付本人調書三一項以下、平成五年一一月三〇日付本人調書二八〇項以下)。しかし、証人久保及び同川田はこれを否定する証言をしている。
もし被告井上の右供述のとおりであったとすると、被告井上は、エキスカベーターの巻上げ直前に、しかも原告東海商船の何の了解もなく川田らの右申入れを唐突に了承したことになり、不自然である(平成五年一一月三〇日付本人調書二九四項)。また、前記認定した事実及び甲第五二号証によれば、エキスカベーターを上げてから数分間、被告井上らと久保及び川田らが話合いをしていることが認められ、被告井上も七分間話し合ったと供述している(平成五年一一月三〇日付本人調書一三六項、平成六年二月七日付調書一六八項)。しかし、もし右了承したことが真実であったなら、その後再度、しかも少なくとも数分間、巻上げについて話し合うことは不合理であるといわざるを得ない。被告井上は、右巻上げの停止の際、単に手足をエキスカベーターに掛けただけであると供述するが、甲第五二号証によれば、川田らと話し合う際に、少なくとも数分間手足を掛けていることが認められるが、被告井上が供述するように、意味もなく数分間手足を掛けることは極めて不自然かつ不合理である。通常の作業手順のとおり、エキスカベーターが地上から約五〇センチメートル上がった時点で、いったん巻上げ作業が停止され、その直後、被告全日海組合員らがエキスカベーターに寄って来て、被告井上及び藤井が、片手と片足をエキスカベーターに掛けて右巻上げを実力で阻止したものといわざるを得ない。したがって、被告らの右主張は認めることができず、その他これを認めるに足りる証拠はない。
(三) 荷役作業遂行の態勢について
被告らは、昭和六三年三月四日当日は、原告東海商船側は荷役作業を遂行する態勢でなかったと主張し、その理由として、「当日は、パシフィック号のホールド内でエキスカベーター巻上げのための準備がされていなかったこと、右巻上げがヒーブラインが取り付けられずに行われており、重量物の巻上げの通常の作業手順と違っていること、巻上げ作業につき無資格者の川田が指揮、監督に直接当たり、上津港運の作業員に合図を送っていること、当日パシフィック号内にいた作業員は前日からオールナイトで作業して残っていたグループであったこと、当日パシフィック号が接岸していた神戸港六甲アイランドKL岸壁はいわゆる専用バースであったにもかかわらず、被告全日海組合員を入門させ、ヘルメットを着用しない増井ら港湾労組役員若干名の入構まで認めたこと。」を上げて主張する。
まず、パシフィック号の第四船艙のホールド内にエキスカベーターを搬入するための準備作業であるダンネージのホールド内への積込み作業が行われていなかったかについては、甲第五二号証のビデオによれば、第四船艙内にスプレッダが吊り下げられ、作業員が作業している場面が映っており、更に、第四船艙内で積荷の重機類がその底にびっしり積み込まれている場面が映った後で、ダンネージと思われる木材が積み重ねられている場面が映っていることが認められる。これらの事実によれば、当日、エキスカベーター巻上げのための準備作業が行われていなかったとまで断言できない。そして、右ビデオが当日の状況をすべて映し出しているわけではないことも考慮すれば、被告らの右主張のようにダンネージがホールド内で準備されていなかったとまでは言い切れない。
巻上げ作業につき無資格者の川田が指揮、監督に直接当たり、上津港運の作業員に合図を送っていることについては、証人久保昌三、同川田昇及び同山本英樹の各証言によれば、ハッチボスが当日上津港運から二人出ていたこと、川田は船内荷役作業主任者ではなかったが、総監督の立場にあって、上津港運のハッチボスに一般的な指示を行っていただけであることが認められ、当日荷役作業を行う体制がなかったとまでは言えない。
当日パシフィック号内にいた作業員は前日からオールナイトで作業して残っていたグループであったかについては、証人山本英樹の証言によれば、確かに、原告東海商船が、当日、作業員らの早出を指示していなかったことが認められるが、他方、山本英樹が当日パシフィック号に来た時点、すなわち午前七時前には、既に作業員は乗船していたことも認められ、証人川田昇及び同久保昌三の各証言も合わせ考えれば、作業員は、被告全日海組合員との接触を避けるため、山本英樹より早くパシフィック号に乗船していたものと認められる。作業員が前日からオールナイトで作業し残っていたことについては、これを認めるに足りる証拠がなく、まして、当日荷役作業遂行の体制がなかったとは言えない。
右巻上げがヒーブラインが取り付けられずに行われたかどうか、及び当日パシフィック号が接岸していた神戸港六甲アイランドKL岸壁がいわゆる専用バースであったにもかかわらず、被告全日海組合員を入門させ、ヘルメットを着用しない増井ら港湾労組役員若干名の入構まで認めたかどうかについては、仮にこれらの事実が存在したとしても荷役作業を行う体制がなかったとはまでは言えない。
以上のとおり、原告東海商船側に、当日荷役作業を行う体制がなかったとの被告らの右主張は認めることができず、その他これを認めるに足りる証拠はない。
(四) 妨害行為の不存在について
被告らは、「午前中のパシフィック号での話合い後、岸壁で待機したが、原告東海商船側からは午後四時まで何の連絡も受けなかった。この間、原告東海商船側から荷役作業員らに対して荷役に関する業務命令も出されず、作業も行われなかった。したがって、荷役妨害なるものも存在し得なかった。」と主張する。
証人山本英樹の証言によれば、右パシフィック号のサロン内での話合い後、山本英樹が被告らに何の連絡もしなかったこと、当日午後四時まで荷役作業が行われなかったことが認められるが、右証言によれば、被告全日海に連絡をしなかった理由は、山本英樹が本社に連絡を取って話合いの場に戻ったところ、既に被告井上らは帰っており、わざわざ連絡する必要性がなかったからであることが認められ、また、前記認定事実によれば、荷役作業が行われなかったのも、被告全日海側の荷役阻止が予想されたからであるといえ、被告ら主張のとおり、荷役妨害がなかったということはできず、その他右主張を認めることはできない。
3 不法行為の成否
以上によれば、被告全日海は、パシフィック号の船主や船員でない上組及び上津港運の作業員らの荷役作業に対し、積込み中のダンネージに手を掛け、また、積込み中のエキスカベーターに手や足を掛ける等して直接妨害したといえ、被告全日海の組合活動は平和的説得の範囲を超えた違法なものであったというべきである。
他方、原告らは、被告井上と被告藤川の右妨害行為の共謀の存在を主張するが、これを認めるに足りる証拠はない(被告井上晴夫本人尋問の結果第二七回口頭弁論調書一〇項以下)。
4 被告らの責任原因
上組は原告東海商船に対し、荷役請負契約に基づく荷役債務を負っていたところ、被告井上は故意により原告東海商船の上組に対する債権を侵害したものというほかなく、その行為者として不法行為による損害賠償責任を免れず、また、被告全日海も、民法七一五条により、東海商船に対し損害賠償責任を免れないものというべきである。
また、被告井上は、原告パシフィックの原告東海商船に対する昭和六三年三月四日分の傭船料支払請求権を侵害し(甲第三五号証によれば、原告パシフィックと原告東海商船との間の定期傭船契約において、荷役が妨げられた場合には、原告パシフィックは、荷役に必要であった時間についての傭船料の支払を受けられないことが定められていることが認められる。)、その他後記損害を与えたものであり、不法行為による損害賠償責任を免れず、被告全日海も、民法七一五条により、その責任を免れないものというべきである。
5 原告らの損害
甲第三五、第四二ないし第四五号証、第四七ないし第四九号証、第五四号証、証人堀端保の証言及び弁論の全趣旨によれば、以下のとおり、被告らの前記不法行為による原告らの損害が認められ、被告らは同損害を連帯して支払う義務を負う。
(一) 原告東海商船の損害
(1) 荷役実行不可能となったことによる待機料相当損害金
イ 船内荷役作業料二組分(早出期間午前七時三〇分から同八時三〇分までの一時間分)一一万一二八〇円
ロ 船内荷役作業料二組分(午前八時三〇分から午後四時三〇分)八八万二八二〇円
ハ 荷役監督一名(午前七時三〇分から午後四時三〇分)二万八七三〇円
ニ 船内荷役に従事する大工一〇名分(午前八時三〇分から午後四時三〇分。以下待機時間はトまで同じ。)二六万六八一〇円
ホ フォークリフト3.5トン車三台分九万五九六〇円
へ 検数員及び艙内荷役確認員四名分一〇万〇六二〇円
ト 荷役検査員一名一万二二六八円
小計一四九万八四八八円
(2) 船内夜間荷役作業関係
イ 船内荷役作業料(三月四日午後四時三〇分から同九時三〇分)七八万六四五六円
ロ 同(三月四日午後九時三〇分から同月五日午前四時)五八万五一〇四円
ハ 同(待機時間は右に同じ。鋼材について)三二万七〇六五円
ニ 同(待機時間は右に同じ。鋼材部品について)五万三三七〇円
ホ 荷役監督一名(三月四日午後四時三〇分から同月五日午前四時三〇分)六万一四八〇円
ヘ 船内荷役に従事する大工二〇名(三月四日午後四時三〇分から同月五日午前四時)一一四万一九四〇円
ト 同(三月五日午前四時から同四時三〇分)一二万〇二〇〇円
チ フォークリフト3.5トン車三台分(三月四日午後四時三〇分から同月五日午前四時三〇分)一七万八二〇〇円
リ 荷役検査員一名二万四五五三円
小計三二七万八三六八円
なお、原告東海商船が損害として請求している検数員及び貨物積付計画図面作成員分(三月五日午後四時三〇分から午後九時三〇分)五万四七四三円及び同月五日午後九時三〇分から同月六日午前四時の間の建設機械五万八一〇七円、鋼材五万七九五〇円、パーツ七三二五円の各損害については、これらを認めるに足りる証拠はない。
(3) 港費関係
イ 水先案内料一七万五〇〇〇円
ロ 曳船料二隻分七万五一六〇円
ハ 船舶係留綱取料七万二九六〇円
ニ 岸壁使用料一八万八六五三円
ホ 監視員料二万四〇〇〇円
小計五三万五七七三円
(4) (1)ないし(3)の合計五三一万二六二九円
(二) 原告パシフィックの損害
原告パシフィックは、被告らの前記不法行為によって、パシフィック号の不稼働期間である昭和六三年三月四日午前七時三〇分から午後四時までの間、同船の使用が不可能となったため、原告東海商船からオフ・ハイヤー(不稼働)として傭船料の支払を拒否され、また、同船の機関をいつでも稼働可能なように維持するため燃料油を消費した。よって、原告パシフィックの損害額は以下のとおりである。
(1) オフ・ハイヤーによる傭船料相当損害金米貨2970.21ドル
(2) 燃料代相当損害金米貨237.37ドル
以上合計3207.58ドル
邦貨換算四一万七九四八円(一ドル130.30円で換算)
第六 結論
一 よって、甲事件については、原告東海商船の、被告全日海及び被告柳田に対する本訴請求は、前記損害一九七万三九七四円及びこれに対する不法行為が行われた後である昭和六二年一一月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、並びに原告タウラスの、被告全日海及び被告柳田に対する本訴請求は、前記損害一五万〇六〇五円及びこれに対する不法行為が行われた後である昭和六二年一一月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を求める限度で、それぞれ理由があるから認容することとし、原告らの被告らに対するその余の請求は、いずれも理由がないから棄却することとする。
乙事件については、原告東海商船の、被告全日海に対する本訴請求は、前記損害七七九万〇一七六円及びこれに対する不法行為が行われた後である昭和六三年三月五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、被告藤川に対する本訴請求は、前記損害二四七万七五四七円及びこれに対する不法行為が行われた後である昭和六三年三月五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、被告井上に対する本訴請求は、前記損害五三一万二六二九円及びこれに対する不法行為が行われた後である昭和六三年三月五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、並びに原告ボランスの被告全日海及び被告藤川に対する本訴請求は、前記損害二〇万〇八九一円及びこれに対する不法行為が行われた後である昭和六三年三月五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、それぞれ理由があるからこれらを認容することとする。原告パシフィックの被告全日海及び被告井上に対する本訴請求は、いずれもすべて理由があるからこれらを認容することとする。原告東海商船の被告らに対するその余の請求、原告ボランスの被告全日海及び被告藤川に対するその余の請求並びに被告井上に対する請求、並びに原告パシフィックの被告藤川に対する請求は、いずれも理由がないからこれらを棄却することとする。
二 なお訴訟費用については、原告らの請求額及び認容額、原告ら内部の相互関係、被告柳田、被告藤川及び被告井上の被告全日海におけるそれぞれの地位及び事案の性格等の諸事情を総合的に考慮し、主文第三項のとおりとする。
三 よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官髙世三郎 裁判官三浦隆志 裁判官井上正範)